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第2章 深海の檻が軋む時
第7変 ネガティブヤンデレの取り扱い(前編)
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(やっちまった……)
床には粉々に散らばったビーカーの破片とその中のどす黒い液体。黒い液体は見た目の重苦しさからは予測できないくらい流動性が高いようで、みるみるうちに薄く広がり、床へと吸収されるように消えてしまった。この大惨事は私がぼんやりして周りを確認せず裏庭から続く廊下の角を曲がったことが原因で起きた。急いでいたらしい青年との正面衝突を防げず、結果、彼を吹っ飛ばしてしまったのだ……吹っ飛んだのが私の方ではなく、青年の方だったことは――まあ、察してほしい。
「ああ、ど、どうしよう……これじゃあ、ま、間に合わない……そ、それに、もう同じ物、つ、作れないし――僕はどうしたら…………ああ、そうか、もう、死ぬしかないのかもしれない……よし、死のう」
「わあ、ビーカーの破片で手首切ろうとしないで! てか、それぐらいじゃ私達死ねないから!」
私は今、廊下に座り汲んでいる細身の青年の腕を掴み、押し問答をしているところだ。目の前の青年は【キスイタ】のネガティブヤンデレこと、人魚のシアン=セレニア――はい、つまりは私が関わりたくなかった問題の攻略対象の一人です。
ちなみに、セレニアというファミリーネームは学校では知られていない。というのも、セレニアはセイレーン由来のため名前で種族がばれてしまうからだ。このように、私のファミリーネームであるセレアンスロゥプ(獣人)も含め、ここでは全ての種族がファミリーネームを伏せ、ただの一個人として学校に通っている。
まあ、種族によって名前の付け方にも固有のものがあるから、探す気になれば特定の種族を探しだすことは可能かもしれない。学校の校則で種族の詮索することなかれって書かれてるからしないけど。
改めて画面内ではなく、目の前に存在している彼を観察する。太陽の光を浴びてキラキラと輝く穏やかな泉のように透き通ったシアン色の長い髪、深海に引きずり込まれたかのような錯覚に陥る群青色の瞳、きめ細やかな白い肌に華奢な手足。近くで見るとよりいっそうその儚げな美青年具合が分かった……目の下に深く刻まれた隈と必要以上に長い前髪を除けばの話だが。
「じゃあ、あなたが殺してよ。僕、もう、ダメだから……。うん、あれはやっぱり奇跡だったんだ。僕が出来ることなんて始めから決まってて――そう、そうなんだ。もう――」
「ああ、もう、だまらっしゃい!!!」
ウジウジ、グダグダ、ネチネチ――彼のそういったところを本来のゲームの主人公ならば根気よくそれに付き合って共依存関係となっていったが、実際に目の前でこれをやられたら、ついつい喝を入れたくなってしまった。
「あのさ、一回作れたんなら、同じのなんかすぐできるって! そもそも、やる前からムリとかできないとか言うんじゃない! そういうのは、やれること全部を全力でやった後にして!!!」
「でも――」
「だあ、もうッッッ!! 『でも』とか『だって』っていう言い訳してるうちにやんの!!! 分かった!?」
「は…………い」
ビクビク、オドオドしながら、私を見上げる彼に、今度はため息をつきながら言う。
「あのね、簡単に死のうとしないで。正直、あんたに死なれても迷惑。誰も喜ばない」
私の突き放した冷たい言葉に、悲痛な面持ちのシアンは口を開きかけて閉じ、絶望的な表情で下を向いた。
「だからさ、誰かを喜ばせるように生きなよ」
「……?」
「死んだらそこで終わりだけど、生きてたらいくらでも変えれるし、変われるでしょ?」
私は顔を上げて驚いた表情をする彼のシアン色の髪をわちゃわちゃと撫でた。
「今回は私が前方不注意でぶつかっちゃったから、あんたは悪くない。でも、弁償とかはちょっとできそうにないから、その奇跡で出来たモノとやらをもう一回作り直すの手伝うよ!」
「???」
「もう、ほら、ここ片付けてあんたの研究室行くよ!」
関わりたくないとずっと思っていた最悪の攻略対象だけど、私はこの子達が嫌いなわけではない。むしろ、幸せになれるのなら、その手助けはしたい。だって、私の愛したキャラだから――
でも、できれば、私と関係ない所でお願いしたいかな?
床には粉々に散らばったビーカーの破片とその中のどす黒い液体。黒い液体は見た目の重苦しさからは予測できないくらい流動性が高いようで、みるみるうちに薄く広がり、床へと吸収されるように消えてしまった。この大惨事は私がぼんやりして周りを確認せず裏庭から続く廊下の角を曲がったことが原因で起きた。急いでいたらしい青年との正面衝突を防げず、結果、彼を吹っ飛ばしてしまったのだ……吹っ飛んだのが私の方ではなく、青年の方だったことは――まあ、察してほしい。
「ああ、ど、どうしよう……これじゃあ、ま、間に合わない……そ、それに、もう同じ物、つ、作れないし――僕はどうしたら…………ああ、そうか、もう、死ぬしかないのかもしれない……よし、死のう」
「わあ、ビーカーの破片で手首切ろうとしないで! てか、それぐらいじゃ私達死ねないから!」
私は今、廊下に座り汲んでいる細身の青年の腕を掴み、押し問答をしているところだ。目の前の青年は【キスイタ】のネガティブヤンデレこと、人魚のシアン=セレニア――はい、つまりは私が関わりたくなかった問題の攻略対象の一人です。
ちなみに、セレニアというファミリーネームは学校では知られていない。というのも、セレニアはセイレーン由来のため名前で種族がばれてしまうからだ。このように、私のファミリーネームであるセレアンスロゥプ(獣人)も含め、ここでは全ての種族がファミリーネームを伏せ、ただの一個人として学校に通っている。
まあ、種族によって名前の付け方にも固有のものがあるから、探す気になれば特定の種族を探しだすことは可能かもしれない。学校の校則で種族の詮索することなかれって書かれてるからしないけど。
改めて画面内ではなく、目の前に存在している彼を観察する。太陽の光を浴びてキラキラと輝く穏やかな泉のように透き通ったシアン色の長い髪、深海に引きずり込まれたかのような錯覚に陥る群青色の瞳、きめ細やかな白い肌に華奢な手足。近くで見るとよりいっそうその儚げな美青年具合が分かった……目の下に深く刻まれた隈と必要以上に長い前髪を除けばの話だが。
「じゃあ、あなたが殺してよ。僕、もう、ダメだから……。うん、あれはやっぱり奇跡だったんだ。僕が出来ることなんて始めから決まってて――そう、そうなんだ。もう――」
「ああ、もう、だまらっしゃい!!!」
ウジウジ、グダグダ、ネチネチ――彼のそういったところを本来のゲームの主人公ならば根気よくそれに付き合って共依存関係となっていったが、実際に目の前でこれをやられたら、ついつい喝を入れたくなってしまった。
「あのさ、一回作れたんなら、同じのなんかすぐできるって! そもそも、やる前からムリとかできないとか言うんじゃない! そういうのは、やれること全部を全力でやった後にして!!!」
「でも――」
「だあ、もうッッッ!! 『でも』とか『だって』っていう言い訳してるうちにやんの!!! 分かった!?」
「は…………い」
ビクビク、オドオドしながら、私を見上げる彼に、今度はため息をつきながら言う。
「あのね、簡単に死のうとしないで。正直、あんたに死なれても迷惑。誰も喜ばない」
私の突き放した冷たい言葉に、悲痛な面持ちのシアンは口を開きかけて閉じ、絶望的な表情で下を向いた。
「だからさ、誰かを喜ばせるように生きなよ」
「……?」
「死んだらそこで終わりだけど、生きてたらいくらでも変えれるし、変われるでしょ?」
私は顔を上げて驚いた表情をする彼のシアン色の髪をわちゃわちゃと撫でた。
「今回は私が前方不注意でぶつかっちゃったから、あんたは悪くない。でも、弁償とかはちょっとできそうにないから、その奇跡で出来たモノとやらをもう一回作り直すの手伝うよ!」
「???」
「もう、ほら、ここ片付けてあんたの研究室行くよ!」
関わりたくないとずっと思っていた最悪の攻略対象だけど、私はこの子達が嫌いなわけではない。むしろ、幸せになれるのなら、その手助けはしたい。だって、私の愛したキャラだから――
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