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七不思議で行方不明者!?何それ面白そう!!

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「フッフッフ……話は聞かせてもらったぞ!」

 数分後、大きな音を立てて扉が開き、上機嫌なアルの声がリビングに響き渡った。もちろん、服装はいつも通りタキシードである。僕がアルの再登場に心の中でため息をついていると、リビングに涼やかな声が響いた。

「やり直しても…………失敗は消せない」

 ふと声の方に目をやると、青年がソファから身を起こしているところだった。彼の肩まである少し灰色がかった髪がさらりと流れ、端正な顔をぱらぱらと覆う様は、男の僕から見ても綺麗だと思う。

 彼の儚げで美しい容姿は、雪女である母親譲りらしい。ちなみに、父親は人間という特殊な存在。まあ、いわゆる半妖というやつだ。

 普通、雪女の子は女であるはずなのだが、男に産まれてしまった彼――レイモンド=アーノルド、通称レイは、男子禁制の雪女の里に居られなくなり、成人すると同時に人間界に降りてきた。ちなみに、雪女の里では周囲がデレデレに甘やかしていたようだ。今も時々雪女の誰かが覗きに来ては、彼の好きなアイスを大量に置いていく。

 …………正直、不法に侵入し、アイスを氷漬けにして居間に放置していくのは、水浸しになったテーブルと床の後処理が色々と大変だからやめてほしい。

 せめて……せめて、冷凍庫かクーラーボックスに入れてくれれば――

「失敗? 失敗とは何の事だ? いつも完璧なこの私に! 失敗などありはしなあああぁぁい!!」

「ああ、はいはい」

 僕はビシッと決めポーズをしているアルを軽くかわしながら、取り皿を並べる為にテーブルへと視線を移しーー隅に置かれていた雑誌を発見した。

「あ、今月の『アヤカシ通信』出たんだ!」

 僕達アヤカシ界の雑誌である『アヤカシ通信』――霊感等がない人間には、ただの白紙にしか見えない特殊な術が掛けられたその雑誌の表紙には、『悪魔界とコラボ』と大きく書かれていた。

「今回……美術品コレクターの話……」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、後で読もうっと♪」

 僕がウキウキと食器のセッティングをしていると、うさ耳付きの白いもこもこパーカーに着替えた奈央が、料理を運んで来てくれた。

「あれ? レイ、そんな所にいたんだ」

「うん……ずっといた…………」

 レイはまだ眠いらしく、いつも以上に覇気のない声で独り言のように呟き、澄んだアメジスト色の瞳がボーッとどこかを見つめている。

「そういえば、アルはどうして寝てたの? いつもは起きてる時間だよね?」

「明日はハロウィンだからな! この時期はアヤカシの力が増すからな。今のうちに力を貯めているのだ!!」

 胸を張って言い切ったアルに、奈央が首をひねる。

「ん? なんでわざわざ貯める必要が?」

「ああ、私はヴァンパイアにとっての食事――人間の生血いきちを飲まないから、生きるためにこの時期に力を蓄える必要があるんだ」

「そっか――いつも普通にご飯食べてるから忘れちゃうけど、アルの本当の食事は、レイが開発した薬だもんね……」

「まあ、私にとって食事は人間でいうところの美術鑑賞のようなものだからな。腹の足しにはならんが、味覚は普通の人間と変わらないから楽しめるぞ!」

「それ初めて聞いた時は、ヴァンパイアへの認識が色々と変わったよ。それに、前に人間の可能性を奪いたくないから食事を絶ったって言ってたけど、それもスゴイ覚悟だよね~」

「私達ヴァンパイアは人間の気力を血という形で摂取するからな。血を吸われた瞬間、人間は何に対しても無気力になる。もし、血を吸ってしまった人間が『アヤカシ戦隊カイ☆レンジャー』やアニメ制作に関わっている人物だったらどうする!? 最悪の場合、続きが見れなくなってしまうこともあるだろうし、これから生まれてくる予定だった別の作品が無気力のせいで生まれなくなってしまうかもしれない!! それは、断固として阻止しなくては!!!」

「あ、うん、人間に可能性を感じてくれてありがとう、アル」

 前のめりに力説するアルに、奈央は少々後ろにのけ反りながら苦笑していた。

(正直、暇だと煩いからってアルに『観劇が趣味なんだしテレビでも観たら』と勧めたのは僕だが、アルがここまで戦隊ものやアニメにハマるとは思ってなかったなあ。おかげで、毎回毎回買い物に行くたびに食玩を買ってとせがまれて店先で駄々をこねられたり、アニメBlu-ray全巻セットだと特典でケースが貰えるからお小遣いが前借りでほしいとか――奈央から今のバイト諸々紹介される前はお金もカツカツだったから、もう、ほんと対処に困ったなあ)

「奈央……さっきの七不思議の話……」

 レイが眠そうに眼をこすりながら、ようやく本題――いや、正直、この流れで全て忘れてなかったことにして、日常生活に戻りたかったのだが――まあ、レイは興味があったのか、本題の話を奈央へと振った。

「あ、うん! 実は……最近、七不思議が出来た薄気味悪い棟があるの」

 さっきまではアルに押され気味だった奈央が、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。僕はその様子に眉根を寄せた。

「でも、七不思議なんて人間が勝手に作ってる怪談でしょ? 別に僕達『アヤカシ』が行かなくても……」

「そうも言ってられないんだよねー」

 取り皿に野菜を盛りつけながらも上機嫌に話す奈央。

「なんと! その問題の棟で……行方不明者が出たの――」
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