【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
68 / 71
IFルート

第五話

しおりを挟む
 

 アリアと心を通わせ少しずつお互いに触れ合う時間を増やしている今、私の世界は着実に鮮やかに彩られている。
 ずっと求めていた幸せな日々を噛み締める一方で、最近の私には悩みの種があった。
 それはアリアの従姉妹であるケインズ男爵令嬢、エミリー・ケインズについてだった。

 あれはいつの日だったかクレイン侯爵邸に赴いた際、偶然私と同じようにアリアを訪ねてきたケインズ男爵令嬢に、アリアが婚約者だと私の事を紹介してくれた時だったと思う。
 彼女から感じた言い知れぬ、だが確かな不快感。

 エミリー嬢は初対面の時から私に対して異常な関心を寄せているように感じた。
 幸い隣にいたアリアは気が付いていないようだったが、向けられた本人は嫌でも気が付く、そんな纏わり付くような気味の悪い視線だった。

 そして先日から繰り返し見ている悪夢の中では、愛しいアリアからケインズ男爵令嬢と私が恋仲だと勘違いされていた。
 夢の中の私は自分自身の行動がきっかけで、最終的に最愛のアリアを失うという恐ろしい結末を迎えていた。
 私の見る悪夢に顔を合わせた事すらなかった男爵令嬢が出てきた事は心底不思議でならなかったが、直接顔を合わせた時に私の中で男爵令嬢に対する警戒心が生まれた。

 ただ現時点で相手が直接何かを仕掛けてきたわけではないので、私は悩んだ末しばらく様子を見る事にした。
 一抹の不安が消える事はなかった為、万が一の事を考えて対策を取る事も忘れてはいない。
 私とアリアの輝かしい未来に、影を指す者など何人たりとも許さない。例えその相手がアリアの縁者だとしても、だ。

 今日は私が懇意にしている友人の屋敷でごく小規模の夜会が開催される為、クレイン侯爵邸へ彼女を迎えに行った。
 エントランスで待機している間アリアに綺麗だとスムーズに伝える練習を心の中でしていた私は、アリアが私の名を呼ぶ声で急いで顔を上げた。
 階段からゆっくりと降りてきた彼女は、何も言えず立ち尽くしている私を見て申し訳なさそうな表情を浮かべ、こちらを伺うように見上げおずおずと口を開いた。

 「アイザック様、私どこかおかしいでしょうか?」
 「あ、いや違うんだっ!あまりにも貴女が美しくて、言葉を失ってしまったんだ」

 今まではもっとスマートに称賛の言葉を言えていた筈なのに、どうしてだかアリアと心を通わせてからスマートに動く事が出来ないでいた。
 お互いに顔を赤らめてそれ以上言えないでいると、見かねた私の従者の機転を利かした咳払いで私ははっと我に返り、待たせている馬車までアリアをエスコートする事が出来た。
 私に対する周囲の評価は有能らしいが、実は私はとてもヘタレなのでは!?

 アリアの前でこそ紳士でスマートな私でいたいのに、彼女の前こそ全然紳士らしく振る舞う事もスマートにエスコートする事すら出来ない。
 そんな私を見て呆れるどころかアリアがとても嬉しそうに笑うので、私はまだ彼女に捨てられないのだと安心はするけれど、いい加減この辺でヘタレた私ではない姿を見せたい。

 女神のように舞うアリアとの幸福な時間はあっという間に過ぎて行ってしまった。
 普段の私達の距離感とは違い、ダンスの時だけはいつもより少しだけアリアと距離が近くなり、彼女の熱が私にまで伝わってきてアリアが確かにここに存在するのがと強く実感させてくれた。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...