【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
上 下
67 / 71
IFルート

第四話

しおりを挟む

 御者の合図でいつの間にか侯爵邸に到着していた事を知った私は、慌てて馬車を降りクレイン侯爵邸の執事の案内の元、応接室へと向かった。
 アリアを待つ間、頭の中でひたすら合図を送る予習をしていると、すぐに控えめなノックの音と共に愛しい彼女が姿を現した。

 「アリア!!」
 
 ……まず、言い訳をさせてほしい。
 本来なら!ここはいつものようにスマートにエスコートする予定でいたんだ。
 なのにどういう訳か、考えとは裏腹に行動と気持ちそのものが直結してしまった私は、おかしな事に気が付けばアリアの元へと駆け寄ってしまっていた。

 「ごきげんよう、アイザック様。ふふっ、何だかいつものアイザック様とはご様子が違うようですが、何か嬉しい事でもあったのですか?」
 「あ、いや、その、ごきげんようアリア。貴女に会えるのを楽しみしていたから、気持ちが急いてしまって。すまない。みっともない姿を見せた」
 「みっともなくなんてありません。だって、私もアイザック様にお会い出来てとても嬉しいです」

 私を見上げて照れたように微笑む彼女を、永遠にこの目に映していたい。
 彼女の少しの表情の変化すら見逃したくなくて凝視していると、見かねた執事長の咳払いでようやく現実に戻る事が出来た私は、慌ててアリアをソファーへとエスコートし並んで腰かけた。

 「アイザック様、先日二人で決めた事件でご提案があるのですが」
 「あ、ああ!何でも言ってくれ」
 「あの、はしたないと思わないで下さいね?私今日アイザック様に合図を送りたいと思って、覚悟を決めてきたんです」

 (私の女神が、私との為に覚悟を決めてくれたのか……)

 その言葉に酷く心を打たれている私を見上げ、彼女はまるで私にとどめを刺すがの如く言葉を発した。

「手を……アイザック様の手を握ってもいいでしょうか」

 彼女の緊張している声色がまるで自分の事の様に全身に伝わってきた私は今の自分の気持ちをアリアへ伝える事にした。
 
「私も、今日ここへ来るまでずっと、貴女にどうやって合図を送ろうか悩んでいたんだ。まさかアリアに先を越されるなんて思わなかったけど。アリア」
「アイザック様」
「私は今とても嬉しい。本当だったら私から言うべきだったのに、貴女から言わせてしまうだなんて男として情けない限りだけど。貴女から言わせてしまったけれど、私もアリアに触れたい。どうか私に、貴女に触れる許可をくれないか」
「は、はい、許可します」
「ありがとうアリア」

 許可を貰った私は、そっと彼女のすき通る様な傷ひとつない小さな手に自分の手を重ねた。

「アリア、愛してる。アリアだけを愛してる」
「私もアイザック様を愛しています」

 (どうかこの幸せな時間が、永遠に続きますように)

 私達はもう以前のような関係ではない。
 一歩ずつではあるがお互いが歩み寄り関係を深め、愛するアリアと本当の夫婦になり、幸せに生きていきたい。
 例えこの先どんな困難な状況になろうとも、私とアリアなら大丈夫だという自信が自然と口から飛び出すくらいの関係になってみせる。

 私はアリアを諦めない。そして私自身も変わらなければならない。
 この花のような笑顔を守る唯一の伴侶として――。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

貴方の運命になれなくて

豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。 ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ── 「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」 「え?」 「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

貴方への愛は過去の夢

豆狸
恋愛
時間は過ぎる。人は変わる。 私も恋の夢から醒めるときが来たのだろう。 イスマエルへの愛を過去の記憶にして、未来へと──でも、この想いを失ってしまったら、私は私でなくなってしまう気がする。それなら、いっそ……

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

処理中です...