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本編
第五十九話 俺には運命であり必然だった・ノア視点③
しおりを挟む魔法で姿を隠し男の屋敷で様子を見ていた俺の目に入ってきたのは、彼女の婚約者であるはずのあの男が、彼女が見ている事も知らず従姉妹を抱きしめ、愛してると口にしていた光景だった。
俺はあまりの可笑しさに、その場で腹を抱えて笑ってしまった。
「あーあ。本当に可哀想な奴だな、心底同情するぜ」
目尻に溜まった涙を手で払い、先程から言葉が出ない彼女の隣にそっと並び立ち様子を見る。
婚約者と従姉妹の役割はひとまずここで一旦終了だ。
横にいた彼女は侍女に声を掛けられ、ハッとした様子で踵を返し屋敷の中に入っていく。
「——近いうちにまた会おう、アリア」
彼女の後ろ姿に向かってそう声を掛けるが、魔法で姿を隠してる俺の声は当然届かない。
長く生きてきてこんなに心が弾む毎日は、今まで一度だって経験した事がなかった。
今の俺は間違いなく日々を楽しんでいる、そう強く感じた。
それから彼女は自分の屋敷に戻り、父親に先程見た光景を報告しようとしていたが、全く相手にされず放心状態で自室へと戻っていった。
その姿があまりにも儚くて、つい姿を表し手を貸したくなったが、今はまだ出ていく場面ではないと必死に自分を抑え込んだ。
悪魔でも女神でも、人間界に干渉さえしなければ基本的に行き来は自由だ。だけど俺は召喚された時に初めてアリアの瞳に映りたいと思っている。
だから今はまだその時ではない。
そして俺がするべき最終準備の為、彼女の屋敷の図書室へ一人足取り軽く向かい適当な本棚にそっと立て掛けた。
どうか、この本がアリアを導いてくれるように——。
悪魔である俺は、原則人間界への干渉は出来ない。
ただ、今回のような本当に弱い魔法は別だ。
別に危害を加えているわけではないし、少し酩酊状態にするくらい特別規則に反するわけじゃない。
だが人間を本人の意思なく無理矢理連れ去るのはご法度だ。
そんな事をしたら上との統率が乱れ最悪な事態を招く。
流石の俺もそこまで馬鹿じゃない。
だからこそ、この本を頼るしかない。
この本自身がアリアを選んでさえくれたなら……。
そして俺の初めての願いは、確かに叶った。
結果はまさに想像通りで笑いを噛み殺すのに必死だった。
アリアは俺が描いたシナリオ通り、あの本と無事に巡り合ってくれた。
そして彼女が確実にあの本に興味をそそられ、何としても実行に移したくなる……そんな焦燥感が増した気分になるようにちょっとした魔法もかけておいた。
これでアリアは自分が普段隠している心の底から望んでいる事を欲するようになるに違いない。
さぁ、準備は整った。
「あー、早くアリアに呼び出されたい」
ようやくここまで来たんだ。
彼女に呼び出されるまであと少し。そう思うと楽しみで自然と口元が緩んでしまう。
「いい子だなアリア。そうやって確実に俺の元へ堕ちてこい」
水盆に映る彼女は、今も必死であの本を読んでいる。
俺が呼ばれるのも時間の問題だろう。
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