【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第五十六話 その瞳に魅入られて②

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「……え」
「なんだよ」
「……わ、私の事、食べるんじゃないの?」
「……だから今してんだけど」
「えっと?」
「はっ……嘘だろ……?」

 ここへ来てようやく、お互いの考えている事に食い違いが生じていると気付いた。
 その後直ぐにノアと話し合うと、とんでもなく恥ずかしい事実が明らかになった。

「あの日、リアが俺のものになるってプロポーズしてきたんだろ?」
「プ、プロポーズ!?私そんなはしたない事してないわ!」
「んだよ、嘘だったのかよ」

 もの凄い機嫌が悪くなったノアに、私は別の意味で心臓がドクドクと音を立てていた。
 あの日私の言った『貴方のものになる』を、あの時からプロポーズとして受け取っていたというの?

「……ノアは、私の事好きなの?」
「当たり前だろ、だから二年間ずっとリアを見守ってきた。てか好きじゃなきゃここまでしない」

 ノアが真っ直ぐこちらを見て伝えてくれるものだから、私は酷く動揺してしまった。こんなに真っ直ぐに想いを伝えてもらった事は今まで一度だってなかった。
 だから私も自分の気持ちに素直になってノアに想いを伝える事にした。

「わ、私もノアの事大好きでっ、」

 言い終わる前に気付けば私はノアの腕の中にいた。

「……リアさぁ、意味分かってる?俺と一緒にいるって事は、“人間としての自分”を捨てるって事だぞ?もっとちゃんと考えろよ」
「私とノアじゃ生きる時間も考え方も違うのは分かってるわ。でも私、ノアといたい。ずっと一緒にいたいの」
「……人間の自分を捨てても?」
「人間の自分を捨てても」
「例え、二度と自由になれなくても?」
「自由になれなくても。ノアがいればそれでいいの」

 抱き締められているノアの手が、僅かに震えているのが分かる。でも私はノアにきちんと伝えなければならない。

「ねぇ、ノア。私貴方を召喚する時に全部捨ててきたのよ。それで手に入れたのがノア、貴方なの」
「……」
「ノア」
「……嘘じゃねーよな?まぁ、もう撤回なんかさせねーけど」
「ずっと側にいてくれてありがとう。大好き」
「リア愛してる。一緒にいよう。永遠に」

 気付けば私達は自然と口づけを交わしていた。
 初めて交わす愛する人との口付けは、こんなにも心を満たし、苦しい程胸が締め付けられるだなんてあの頃の私は知らなかった。
 ノアに抱きしめられながら彼を召喚した日を振り返る。


 あの日。ノアを召喚した時から、きっと私はこの悪魔の赤い瞳に自分が映りたいと願っていたのかもしれない。
 私は全てを捨てたけど、不思議と後悔はない。だって……、

 ノアがいい。ノアがいればいいの。
 私の本当の願いは、ようやく叶ったのだから。


 この時の私は、ようやくノアと想いが通じ合った事に酷く舞い上がっていた。
 だからこそ気が付かなかった。私を愛していると抱きしめてくれたノアの瞳が、普段よりも更に濃い赤色に変わり怪しく輝いていた事も、彼の口元が歪に歪んだ笑みを浮かべていた事も。
 幸せな私は何一つ気付かなかった——。
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