【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
46 / 71
本編

第四十六話 想いに目を向けて②

しおりを挟む


「マーサさん、こんにちは」
「お、アリアちゃんじゃないか!相変わらず今日も綺麗だねぇ、本当に目の保護になるよ。あ、そうそう、来週また新作のパンを販売するから気が向いたら寄っておくれよ!いつものようにおまけするからさ♪」
「本当ですか?嬉しい!必ず買いに行きますね」
「ああ!待ってるよ!」

 マーサさんはこの区画1番の古株だそうで、彼女に知らない事は一つもないと言われるくらいこの市場の事を知り尽くしていると聞いた事がある。

 そんなマーサさんのパン屋を通り過ぎると、次に見えてきたのはローガンさんというお爺さんが営んでいる果物屋だった。

「アリアちゃん、今日は買い物かい?」
「こんにちは、ローガンさん。ええ、今日は本屋に用事があるんです」
「そうかい!なら今日ちょうど食べ頃のフルーツ達が入ってきてるからよかったら後で見て寄ってくれ!」
「本当ですか!じゃあ買い物が終わって時間があるようなら寄りますね」
「そうしてくれ!あ、それと本屋はここから近いけどアリアちゃんは美人さんだから気をつけて行くんだよ!」
「ふふっ、ありがとうございます」

 年齢を感じさせないローガンさんのお店を通り過ぎると次はジェームズさんが営んでいる花屋がある。

 本当だったらここでマーサさんやローガンさんのように挨拶をするべきなのかもしれない、でもどうしても躊躇してしまう自分がいた。
 どうしようか考えていると、ちょうどジェームズさんが店から出てくる所で自然と目が合った。

「アリアさん、こんにちは」
「こ、こんにちはジェームズさん」
「今日はどこかへ買い物かい?」
「ええ、ちょっと本屋に用事があるんです」
「……そうか。アリアさんが最近うちに寄ってくれないからどうしているのか心配だったんだよ。でも元気そうで良かった」
「え、えっと……」
「いや、いいんだ。分かってるから」

 私はジェームズさんのその言葉にどう返答していいか分からず言葉を失ってしまった。
 困って固まっている私にジェームズさんは照れたように笑いながら言葉を続けた。

「アリアさん、またうちの花屋に是非遊びに来て下さいね。俺待ってますから」
「え、ええ、そうですね……」

 私の返答が失礼な事は分かっている。
 でも私はどうしてもジェームズさんが苦手だった。

 思い返せば初めて花屋へ行った時から、ジェームズさんが私へと向けるあのまとわりつく様な暗い視線が苦手だった。

 最初は気のせいだと思っていたけれど、会う度にあの暗い瞳を向けられ、花を受け取る際に手が触れ合った時は悲鳴をあげそうになった事もあった。
 その時は何とか悲鳴を飲み込んでその場を後にしたけれど、今思い返しても身体が震えそうになる。
 花屋を後にしてもいつまでもジェームズさんの暗い視線に跡を付けられているように感じ、私は早足で本屋へ向かった。
しおりを挟む
感想 133

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

処理中です...