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本編

第四十三話 王都での日々③ー2

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「次はナイフを使うから、まずはナイフの持ち方からだな。ここにナイフを二本用意してるから一緒に持ち方を覚えよう」
「分かったわ」
「じゃあまず最初にナイフの下は絶対触ったらダメだ。触ったら確実に怪我するからこれは覚えてくれ。」
「必ず守るわ」
「よし、じゃまずはナイフの刃を下向きにして持つ。その時人差し指はナイフの峰に置く事。その時親指は刃元に添える、そうそう、そんな感じで持ってくれ。で、残りの三本の指と手の平全体で包み込むように柄をしっかりと握る。リア、初めてなのに上手に持ててるぞ」
「本当?良かった。それにしてもナイフを持ったのも初めてだわ」
「リアはナイフの怖さを知らないから、本当に怪我しないように気をつけてくれよ」
「約束するわ」

 ナイフに持ち方があるだなんて、今まで知らなかった。
 ただナイフを持てば食材が切れると取っていた自分が酷く無知で恥ずかしかった。

「じゃあここからは、リアが好きなアボカドをカットする。流石にアボカドを切るのはリアには無理だから俺がやるけど、リアは一旦ナイフを置いて調理台から少し離れて見ててくれ。ナイフを使うからあまり近くに来ると危ないから」
「ええ、分かったわ」
「まず、食材をカットする時、ナイフとは逆の手は丸めて食材に添える。この時指の第一関節がナイフの腹に当たるようにする。この時親指も一緒にきちんと曲げる事。じゃないと怪我するからな」
「ナイフの持ち方だけじゃなくて、手の添え方もきちんとあるのね」
「そりゃただ食材を持つだけだと指切るからな」

 私は今までどれだけ無知なまま生きてきたんだろう。
 貴族にとっては必要のない知識だったのかもしれない。けれど食材が何もせず料理として出てくる筈がないと少し考えれば分かる事だったのに。

「いいかリア。アボカドは真ん中に大きい種があるからナイフで完全に真っ二つにはしない。アボカドを片手で持って、こうやって種があるから縦半分までナイフを入れてグルっと一周させる。で、ナイフは一旦置いていいから、アボカドを両手で持って互い違いに軽くねじりながら二つに分ける。ここまでは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
「で、分けた実の片方を持ってナイフのあごの部分を種に刺す。で、ねじるように種を取り外す。あとは皮を剥いて終わりだ。この後は適当にカットすればいいだけだから、ここからはリアでもできるだろ」
「やってみるわ」

ノアが種を取り出してくれたアボカドを受け取り私は先程おしえてもらったようにナイフを持ち、恐る恐るアボカドをカットしていく。
 柔らかくナイフが入れやすかったのもあり、すんなりカットする事が出来た。

「ノア……私ナイフが使えたわ」
「初めてにしてはよく切れてる。上手だぞリア」

 (どうしよう……凄く嬉しい)

 今までたくさんの事を学び実践してきたけれど、こんなに真っ直ぐに褒めてもらった事はなかったし、褒めてもらう事がこんなに幸せな気持ちになるなんて知らなかった。
 私は嬉しくて、このままミニトマトもカットしてみたい事をノアに伝え、二人で一つずつ半分にカットしていった。
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