【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第四十二話 王都での日々③ー1

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 あの買い物から数日が経ち、私は今日ノアの指導の下初めての料理に挑戦する。
 事前にノアが初心者でも失敗しにくい料理を教えてくれると言っていたので、私は今日という日を今か今かと心待ちにしていた。
 昨日は楽しみすぎて上手く寝付けず、それでいて朝はいつもより早く起きてしまう始末だった。

 あの日ノアに買ってもらったブルーのエプロンを持ち、私は早足でキッチンへと向かった。
 キッチンに着くとそこには既にノアがいて、食材を分かりやすいように調理台の上に並べてくれている所だった。

「ノア、今日は何を作るの?」
「今日は初心者のリアにも比較的簡単に出来る卵料理とサラダにしようと思ってる」
「卵料理とサラダ……とっても楽しみだわ!ノア、今日はよろしくお願いします」
「俺も一緒に作るから、そんなに気張らないでいいぞ」

 今まで食事と言えば、席に着いたら自然と出てくるものだった。
 この家に来て、私は生まれて初めて目の前で料理を作る人の姿を見た。
 一つ一つがまるで魔法にかけられたかの様に、ノアの手で姿形を変えていく食材たちを目の当たりにした私は、初めて見るその光景に幼い頃お気に入りだった魔法使いの絵本を読んだ時のような胸の高鳴りを感じた。

 その憧れとも言える料理をやっと教えてもう事が出来る!!
 先日買ってもらったエプロンを身につけ、最近では以前よりもスムーズに結べるようになったリボンを綺麗に結ぶ。

「やっぱりそのエプロンはリアによく似合ってる」
「そう言ってもらえてとても嬉しいわ。ノアに買ってもらったものだもの、ずっと大切にするわ」

 似合ってると言われ、嬉しくて顔が緩みそうになったが、これ以上恥ずかしい姿を見せたくなくて必死で取り繕う。

「じゃ、まずは手を洗ってサラダから作ろう」
「分かったわ」

 ノアに言われた通り、流しで石鹸を使って丁寧に手を洗う。

「ノア、洗ってきたわ」
「よし、じゃあまずは俺が手本を見せる。このボウルにあるミニトマトをこうやって水で洗う。ここでの注意点はミニトマトは潰れやすいからそんなに力を入れて洗わない事。別に土とか付いてないし、そこまでガシガシ洗う事はないからな」
「強く洗ってはダメなのね」
「そうだ。で、洗えたら横にあるカゴで水気を切るからミニトマトを入れる。ここまでは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だと思うわ」
「よし。じゃあ、ゆっくりでいいからやってみてくれ」
「分かったわ」

 ノアが今やって見せてくれていたように、ボウルに水を流しながらミニトマトに付いた汚れを落としていく。
 潰さないように慎重に洗っていき、洗い終わったミニトマトを横の台にあるカゴに移していく。

 (楽しい……‼︎)

 まだ“ミニトマトを洗う”という事しか出来ていないけれど、それでも初めて自分でする料理は輝いて見えた。
 ゆっくりだったけれど、全てのミニトマトを洗い終えた私は笑顔で横にいるノアに声を掛けた。

「見て、私ちゃんと洗えたわ!潰さずに洗えたのよ‼︎」
「ああ、ちゃんと出来てた。その調子でやってこう」

 興奮気味に話かけた私に、ノアも嬉しそうに応えてくれた。
 その事が嬉しくて、私はノアに次は何をしたらいいのかを聞いた。
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