【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第三十話 それぞれのその後・アイザック視点①

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 あの日、アリアの死の真相を知った私は、それ以降急速に目に映るもの全てが色を失くしていった。

 エミリー嬢とのやり取りを、まさかアリアに見られているなんて……。
 愚かな私はそんな想像すらしていなかった。
 結局あの話し合いの場で何度「エミリー嬢を愛していない」と叫んでも、最後までクレイン侯爵に信じてもらう事は出来なかった。
 
 そしてもうアリアはいないのだからと、婚約白紙の手続きを取ると言ったクレイン侯爵に、それだけは辞めてしてほしいと泣いて縋っても取り合ってもらう事すら叶わなかった。
 侯爵の言う事は何も間違っていない。むしろ当たり前の行動だ。
 一般的な考えとして故人と婚約を継続している人は誰もいないだろう。
 
 私の願いも虚しくアリアとの唯一の繋がりだった婚約も白紙になり、クレイン侯爵家からは今後一切関わらないと通達がなされた。

 私は葬儀に出席出来なかった為、彼女に別れを告げる事すら叶わなかった。
 だからなのだろうか……私にはまだどこかでアリアが生きているような気がしてしまう。
 もしかしたら今までの事は全部悪い夢で、目が覚めたらアリアは生きているんじゃないか。
 いつものようにはにかんだんだような笑顔で「アイザック様」と呼んでくれるのではないかとさえ願ってしまう自分がいる。

 朝起きてそんな私の考えの方が夢なんだという事実に、目が覚める度何度も絶望し目の前が黒く染まっていった。
 そんな毎日を送っていた私は、そのうち生きているのに何も感じる事がない、ただ体が動かせるだけの人形のようになっていった。

 もっと素直になれば良かった。正直に触れたいと、心から愛していると伝えていれば良かった。
 そうやってあの日を振り返りどれだけ後悔しても、もうアリアは戻ってこない。
 私を見つめる、あの不思議で吸い込まれそうな瞳に、二度自分が映る事は出来ないのだと、私はどうしても受け入れる事が出来なかった。
 どれだけ周囲の人間にアリアがいない事実を突きつけられても、もうこの時の私には誰の言葉も理解出来なくなっていた。

 そんな私を見兼ねた父から、このままなら後継は弟に変更すると言われたが、それすらもうどうでも良かった。
 そもそも跡を継ぐのだって、アリアがいたから頑張っていただけだ。
 彼女が嫁いで来て苦労する事がないよう、何不自由ない生活が出来る様に。彼女が笑顔でいられるように。ただそれだけだった。
 アリアがいない今、私にとって後継という立場は何の価値もないただの飾りと同じだった。


 ……アリアに会いたい。


 会ってあの日の事を誠心誠意謝罪して、やり直したい。
 彼女に許してもらえるなら何だってする。
 だから、どうか……。
 もう一度私をその瞳に映して欲しい。愛してると言ってほしい。
 
 そんな風に日々願っていたからだろうか。
 その日アリアを失ってから日課になっている祈りを就寝前に捧げていると、自室のバルコニーから風と共に懐かしい香りが運ばれてきた。

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