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本編
第二十六話 突然の知らせ③
しおりを挟むアリアは自殺だった。
この事実は私自身の罪をより色濃くし、一層苦しめる現実となった。
アリアの葬儀は親である私と、侯爵家の使用人だけのとても寂しいものとなった。
婚約者であるアイザックにはまだアリアの死を伝えていない。
よって必然的に葬儀に呼ぶ事もなかった。
娘との最後の別れの時間、棺の中で静かに眠るあの子に私は伝えたい事が沢山あったが、結局最後に出てきた言葉は一つだけだった。
「アリア、私はお前を愛おしく思ってる。私の……たった一人娘だっ……、ぅ……愛してないわけがないだろうっ」
あの日、アリアの部屋から見つかった私宛の手紙に書いてあった言葉を思い出す。
親愛なるお父様
どうか先立つ不幸をお許し下さい。
私は例え愛されていなくてもお父様の娘に生まれ恵まれた生活をさせていただけた事、心から感謝しています。
業務提携が目的の婚約でも、アイザック様との婚約は私にとって身に余るほどの幸福でした。
それでもアイザック様が愛しているのは私ではなく、エミリーなのです。
あの茶会の日、庭園の影で二人が抱き合い愛を囁いているのを見て、私は本当に邪魔な存在は一体誰なのかに気付いたのです。
ですからどうかあの二人を責めないでください。
確かに最初は裏切られた気持ちになり悲しかったし悔しかった。
でも今はもういいのです。
どうかあの二人が幸せになれるように、お父様も力を貸して下さい。
それが今私が望む唯一の願いです。だからどうか、二人を引き裂く事だけはなさらないで。
私は今まで一度も、お父様の手を煩わせた事はなかったでしょう?
だから一度だけでいいのです。私の我儘を叶えて下さいませんか。
最後までお父様にとって使えない娘だったと思います。政略の駒にもなれない不出来な娘で申し訳ありませんでした。
そしてお父様、どうかいつまでもお元気で。
貴方の娘、アリア
どれだけ悔やんでも娘が戻ってくる事はない。私が泣いていても時間は無情にも待ってはくれない。
侍従を呼びあの茶会の日、一体何があったのかを早急に調べさせた。
そして後日私の元へ届いた報告書には、手紙でアリアが伝えてきた通りの内容が書かれていた。
その瞬間あれ程好青年だと好感を持っていたアイザックに対して私は殺意が湧いていた。
エミリーに対しても従姉妹の婚約者に横恋慕した挙句抱き合うなどと人間性を疑う行動にあれと親戚だという事実に心底嫌悪感を抱いた。
そして私はすぐにアイザックとエミリーへ連絡を取り、直接確認する事にした。
数日後約束の時間きっかりに二人はそれぞれの馬車で我が家へやって来た。
なぜ二人同時に呼ばれたのか分からないというような雰囲気のアイザックと、嬉しそうな表情を隠しきれていないエミリーは私から見て酷く対照的に映った。
感じる違和感を一旦横に置き、私は早速本題に入る事にした。
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