【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
上 下
26 / 71
本編

第二十六話 突然の知らせ③

しおりを挟む


 アリアは自殺だった。
 この事実は私自身の罪をより色濃くし、一層苦しめる現実となった。

 アリアの葬儀は親である私と、侯爵家の使用人だけのとても寂しいものとなった。
 婚約者であるアイザックにはまだアリアの死を伝えていない。
 よって必然的に葬儀に呼ぶ事もなかった。

 娘との最後の別れの時間、棺の中で静かに眠るあの子に私は伝えたい事が沢山あったが、結局最後に出てきた言葉は一つだけだった。
 
「アリア、私はお前を愛おしく思ってる。私の……たった一人娘だっ……、ぅ……愛してないわけがないだろうっ」

 あの日、アリアの部屋から見つかった私宛の手紙に書いてあった言葉を思い出す。


 親愛なるお父様

 どうか先立つ不幸をお許し下さい。
 私は例え愛されていなくてもお父様の娘に生まれ恵まれた生活をさせていただけた事、心から感謝しています。
 業務提携が目的の婚約でも、アイザック様との婚約は私にとって身に余るほどの幸福でした。

 それでもアイザック様が愛しているのは私ではなく、エミリーなのです。
 あの茶会の日、庭園の影で二人が抱き合い愛を囁いているのを見て、私は本当に邪魔な存在は一体誰なのかに気付いたのです。

 ですからどうかあの二人を責めないでください。
 確かに最初は裏切られた気持ちになり悲しかったし悔しかった。
 でも今はもういいのです。
 どうかあの二人が幸せになれるように、お父様も力を貸して下さい。
 それが今私が望む唯一の願いです。だからどうか、二人を引き裂く事だけはなさらないで。

 私は今まで一度も、お父様の手を煩わせた事はなかったでしょう?
 だから一度だけでいいのです。私の我儘を叶えて下さいませんか。
 最後までお父様にとって使えない娘だったと思います。政略の駒にもなれない不出来な娘で申し訳ありませんでした。
 そしてお父様、どうかいつまでもお元気で。
 
 貴方の娘、アリア



 どれだけ悔やんでも娘が戻ってくる事はない。私が泣いていても時間は無情にも待ってはくれない。
 侍従を呼びあの茶会の日、一体何があったのかを早急に調べさせた。
 そして後日私の元へ届いた報告書には、手紙でアリアが伝えてきた通りの内容が書かれていた。
 その瞬間あれ程好青年だと好感を持っていたアイザックに対して私は殺意が湧いていた。
 エミリーに対しても従姉妹の婚約者に横恋慕した挙句抱き合うなどと人間性を疑う行動にあれと親戚だという事実に心底嫌悪感を抱いた。

 そして私はすぐにアイザックとエミリーへ連絡を取り、直接確認する事にした。
 数日後約束の時間きっかりに二人はそれぞれの馬車で我が家へやって来た。
 なぜ二人同時に呼ばれたのか分からないというような雰囲気のアイザックと、嬉しそうな表情を隠しきれていないエミリーは私から見て酷く対照的に映った。
 感じる違和感を一旦横に置き、私は早速本題に入る事にした。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

貴方の運命になれなくて

豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。 ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ── 「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」 「え?」 「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」

貴方への愛は過去の夢

豆狸
恋愛
時間は過ぎる。人は変わる。 私も恋の夢から醒めるときが来たのだろう。 イスマエルへの愛を過去の記憶にして、未来へと──でも、この想いを失ってしまったら、私は私でなくなってしまう気がする。それなら、いっそ……

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...