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本編

第十五話 優しい婚約者③

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「……ア、アリアの気にする相手ではないんだよ。それより‼︎体調が良くなったらあの日をやり直す訳じゃないけれど、一緒にどこかに出掛けないか?」

 (——エミリーとの事は私には関係ないと仰るのね)

「……ええ是非」
 
 自分でも驚く程冷たい声で返事をしてしまった事に驚いたけれど、それよりももう何もかもが限界だった。
 突然笑顔のまま黙り込んだ私を見て、何故か彼はオロオロとし始めた。
 
「アリア、顔色が悪い。やはりまだ本調子じゃないんだろう?それなのに突然押しかけて相手をさせてしまい本当にすまないっ」
「アイザック様お気になさらないでください。でもやはり今日はもう部屋に戻りたいと思います。来てくださりありがとうございました」
「アリア、今日は会えて良かったよ。体調が良くなったら必ず連絡して。待ってるから」
「はい、約束します」
 
 そしてアイザック様は侍女に、私を部屋まで戻すように指示を出していた。
 挨拶をし応接室の扉の前まで来た私は、最後にアイザック様の方を振り返った。

「……ねぇ、アイザック様」
「どうしたのアリア」
「私、初めてお会いした時からずっとアイザック様を愛しています」
 
 これは紛れもない私の本心。

「私も初めて会った時からアリアを愛してるよ。でも、突然どうしたの?」
「……いえ、何も。ただ、アイザック様に私の想いを伝えたくなってしまって」
 
 そう言って微笑むとアイザック様は安心したような、でも少しだけ悲しそうな表情で微笑んだ。
 
「早く良くなってアリア。君が元気でないと私は不安なんだ」
「……そうですね……早く元気な私に戻れるようにしますね」
 
 そう言って微笑んだ私は、綺麗に笑えていたかしら?
 最後に貴方の瞳に映る私は、いつも通りの私だった?


 アイザック様、本当にありがとうございました。
 愛してもいない私に、愛してると返してくれて。
 ただ婚約者という座に居座っているだけの私に、優しくしてくれて。
 8歳で婚約してから10年間、本当に幸せでした。
 貴方を愛しているからこそ、本当に愛する人と幸せになってほしい。
 これは紛れもない私の本心。


 だから私は、アイザック様を解放してあげようと思う。
 邪魔な私さえいなければ、アイザック様は愛するエミリーと幸せになれるのだから。
 今日彼と話して、私がこれから取るべき行動を頭の中で速やかに組み立てていく。

 誰も幸せじゃないこの状態から、みんなが幸せになれる道を。
 アイザック様達の為だけじゃない。私自身の幸せの為に……。


 
 私は禁忌に手を出す事にした。
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