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本編
第七話 願いは叶わない②
しおりを挟む(それなのに、お父様は私が嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしても平気だと仰るのね……)
愚かな私は、ほんの少しだけ期待していた。
もしかして婚約者の不実を報告したら、アイザック様との婚約を解消してくれるのではないかと……。
“政略の駒”としてではなく、“父の娘”として今まで交わる事のなかった視線をようやく合わせてくれるのではないかと……。
でも現実はどうだろう。父は私を見る事もなく、領主としてのやらなければならない手元の書類を淡々と捌いている。
娘の婚約者が……よりにもよって従姉妹と愛し合っていると報告しようとしても、父にとっては領主としての執務の方が優先すべき事柄であって娘の話なんて些細な事だったのだろう。
「っ……」
——私は父にすら愛されていない。
唐突に現実を突きつけられた私は、もう何も言葉にする事が出来なかった。
呆然とその場に立ちすくむ娘に対し父は、更に追い討ちをかける。
「話はこれで終わりだ。いいかアリア、婚約解消は認めない」
それだけ言い終わると、こちらに向かって手を振り退出を促した。
そっと扉を閉め廊下に出た私は控えていたノーラを連れフラフラとした足取りで自室へと戻った。
「お嬢様、先程よりも顔色が良くありません。何があったのですか」
「……ええ」
ノーラが何やら横から声をかけてくれていたけれど、執務室での出来事で呆然としていた私は曖昧に相槌を打った。
そしてその後どうやって自室に戻ったのかの記憶もなく、気付いたら私はソファに腰掛けていた。
婚約者だけでなく、父にすら愛されていなかったという事実に、もう心がついていけなかった。
心配してくれているノーラには悪いと思ったが、一人になりたかった私は人払いをし先程のアイザック様とエミリーの逢瀬と父との会話を思い出し、我慢していた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「っ……、っう……っ……」
行き場のないこの思いを解消する事すら許されないのだと絶望し、私はそのまま泣き続けた。
「っ……、どうして……っう……」
「私はただ……私だけを愛してくれる人と幸せになりたいだけなのにっ……」
自分でも無意識に飛び出た言葉は私の心からの願望だった。しかし誰に届く事もなく、そのまま静けさと共に消えていった。
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