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アーロン視点03
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荷物を纏めるように父上に言われた翌日。
平民になりたくないと泣く僕に、家族は一度も会いに来る事はなかった。
そして用意された朝食を食べているうちに、いつの間にか強烈な眠気が襲いいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
目が覚め気付いたら、自分の私室ではなく物置きのような汚い場所にある簡易ベッドに寝かされていた。
起き上がり窓を開け辺りを見渡すが、明らかに伯爵邸ではないし景色にも見覚えはなかった。
そしてふと部屋の中を見渡すと、もう一つの簡易ベッドに見覚えのある人物が寝ている事に気が付いた。
何故かシエナがそこにいた。
どうして?と働かない頭で考えたが、ふと昨日の事を思い出した。
そうだ、自分はシエナと結婚して平民になるように言われたんだ……
でも婚姻証明書にもまだサインはしていないから、まだ夫婦ではないはずだ。
まだ間に合う。伯爵家に戻って、誠心誠意謝罪すれば許してもらえるかもしれない!!
そう思った僕は、シエナを起こし、伯爵家に戻る事にした。
「シエナ。シエナ!起きてくれ。伯爵家に戻りたいんだ、ここがどこか分かるか?」
「っん……あれ?アーロン様?ん……ここはどこ?」
「僕にも分からないんだ。気付いたらここに寝ていて……僕は伯爵家に帰りたい。ここがどこか君は知ってるか?」
「ここどこ?あたしは伯爵夫人になるんでしょ?どうして伯爵夫人が普通の平民より酷い場所で寝ているの?」
「……伯爵夫人?君は何を言っているんだ?」
本当にシエナは何を言っているのだろう?
理解出来ない事が表情に出ていたのか、シエナがますます不思議そうに言った。
「だって、アーロン様と結婚してあたしは伯爵夫人になったんでしょ?」
「ちょっと待ってくれ。結婚ってどういう事だ?まだ籍は入っていないだろう?それに僕と結婚しても、伯爵夫人にはなれない。僕には兄が一人いるから伯爵位を継ぐのは兄だ。僕じゃない」
「……は?何それ。伯爵夫人になれないわけ!?意味わかんない、騙してたわけ!?」
「っ!騙すだなんて失礼な!僕は一度も伯爵位を継ぐなんて言った事はない!勝手に勘違いしたのはそっちだろう!」
騙した事実なんてないのに、シエナはどうしてこんなにも妄想が激しいんだ。こんな妄想女を好ましいと思っていた過去の自分が心底恨めしい。
「ちょっと、あたしのせいにするわけ!?将来伯爵だから近づいたのにとんだ誤算じゃない!!ほんっとに最悪。こんな結婚、無効よ!!」
「さっきから結婚結婚言っているが、僕たちはまだ籍を入れていないから他人じゃないか!勝手に結婚した事にしないでくれないか?」
結婚なんて冗談じゃない。僕は早く伯爵邸に帰りたいのに、シエナの妄想は常識の範囲を超えている。
だが、次のシエナの言葉が僕の思考を停止させた。
「結婚ならしたわよ。今朝男爵家から伯爵家に向かう為の馬車の御者が、あんたのサインはあるから後はあたしのサインだけだって、婚姻証書にサインするように渡してきたのよ。だからそのままサインしてその御者に渡したのよ!!あぁ!騙された!!」
目の前で頭を掻きむしっているシエナの言った言葉を、何度も心の中で復唱する。
婚姻証書にサインした?
僕のサインは記入済みだった?
その時、だんだんと今朝の朝食時の侍従とのやり取りを思い出してきた。
そうだ。朝食の時、侍従が何かのサインを求めてきた。その時サインをしてから伯爵に、もう一度話し合いをしたいと申し出ましょうと言われたのだ。
だから、よく見もしないでサインしたのだ……
そう間違いなく自分でサインした記憶がある……
あまりの衝撃に立っている事が出来ず、顔を両手で覆ったままその場に崩れ落ちる。
ここへ来てようやく完全に切り捨てられたのだと理解した。
もう二度と伯爵邸に戻る事は出来ないのだと、理解した時には全てが遅かった。
あの時ちゃんとフローラを大事にしていたら、こんな事にはならなかったのに……
僕は、なんて事をしてしまったんだ。
この後の生活を思うと、震えが止まらない。
まともに働いた事のない僕に、一体何の職に就けるというのだろう。
今更悔やんでも何もかも遅い。遅すぎたんだ!!
これからどんなに辛くても、この状況から抜け出す方法はない。
貴族でいられる未来を捨て、手に入れた真実の愛は平民になる事と、そもそもそこに真実の愛はなかったという現実だけなのだから。
平民になりたくないと泣く僕に、家族は一度も会いに来る事はなかった。
そして用意された朝食を食べているうちに、いつの間にか強烈な眠気が襲いいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
目が覚め気付いたら、自分の私室ではなく物置きのような汚い場所にある簡易ベッドに寝かされていた。
起き上がり窓を開け辺りを見渡すが、明らかに伯爵邸ではないし景色にも見覚えはなかった。
そしてふと部屋の中を見渡すと、もう一つの簡易ベッドに見覚えのある人物が寝ている事に気が付いた。
何故かシエナがそこにいた。
どうして?と働かない頭で考えたが、ふと昨日の事を思い出した。
そうだ、自分はシエナと結婚して平民になるように言われたんだ……
でも婚姻証明書にもまだサインはしていないから、まだ夫婦ではないはずだ。
まだ間に合う。伯爵家に戻って、誠心誠意謝罪すれば許してもらえるかもしれない!!
そう思った僕は、シエナを起こし、伯爵家に戻る事にした。
「シエナ。シエナ!起きてくれ。伯爵家に戻りたいんだ、ここがどこか分かるか?」
「っん……あれ?アーロン様?ん……ここはどこ?」
「僕にも分からないんだ。気付いたらここに寝ていて……僕は伯爵家に帰りたい。ここがどこか君は知ってるか?」
「ここどこ?あたしは伯爵夫人になるんでしょ?どうして伯爵夫人が普通の平民より酷い場所で寝ているの?」
「……伯爵夫人?君は何を言っているんだ?」
本当にシエナは何を言っているのだろう?
理解出来ない事が表情に出ていたのか、シエナがますます不思議そうに言った。
「だって、アーロン様と結婚してあたしは伯爵夫人になったんでしょ?」
「ちょっと待ってくれ。結婚ってどういう事だ?まだ籍は入っていないだろう?それに僕と結婚しても、伯爵夫人にはなれない。僕には兄が一人いるから伯爵位を継ぐのは兄だ。僕じゃない」
「……は?何それ。伯爵夫人になれないわけ!?意味わかんない、騙してたわけ!?」
「っ!騙すだなんて失礼な!僕は一度も伯爵位を継ぐなんて言った事はない!勝手に勘違いしたのはそっちだろう!」
騙した事実なんてないのに、シエナはどうしてこんなにも妄想が激しいんだ。こんな妄想女を好ましいと思っていた過去の自分が心底恨めしい。
「ちょっと、あたしのせいにするわけ!?将来伯爵だから近づいたのにとんだ誤算じゃない!!ほんっとに最悪。こんな結婚、無効よ!!」
「さっきから結婚結婚言っているが、僕たちはまだ籍を入れていないから他人じゃないか!勝手に結婚した事にしないでくれないか?」
結婚なんて冗談じゃない。僕は早く伯爵邸に帰りたいのに、シエナの妄想は常識の範囲を超えている。
だが、次のシエナの言葉が僕の思考を停止させた。
「結婚ならしたわよ。今朝男爵家から伯爵家に向かう為の馬車の御者が、あんたのサインはあるから後はあたしのサインだけだって、婚姻証書にサインするように渡してきたのよ。だからそのままサインしてその御者に渡したのよ!!あぁ!騙された!!」
目の前で頭を掻きむしっているシエナの言った言葉を、何度も心の中で復唱する。
婚姻証書にサインした?
僕のサインは記入済みだった?
その時、だんだんと今朝の朝食時の侍従とのやり取りを思い出してきた。
そうだ。朝食の時、侍従が何かのサインを求めてきた。その時サインをしてから伯爵に、もう一度話し合いをしたいと申し出ましょうと言われたのだ。
だから、よく見もしないでサインしたのだ……
そう間違いなく自分でサインした記憶がある……
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ここへ来てようやく完全に切り捨てられたのだと理解した。
もう二度と伯爵邸に戻る事は出来ないのだと、理解した時には全てが遅かった。
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この後の生活を思うと、震えが止まらない。
まともに働いた事のない僕に、一体何の職に就けるというのだろう。
今更悔やんでも何もかも遅い。遅すぎたんだ!!
これからどんなに辛くても、この状況から抜け出す方法はない。
貴族でいられる未来を捨て、手に入れた真実の愛は平民になる事と、そもそもそこに真実の愛はなかったという現実だけなのだから。
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