12 / 15
最終話 この地獄のような楽園に祝福を②
しおりを挟む後継者争いは予想よりも簡単に決着が着いた。
もともと兄弟間で一番出来損ないと言われた私が、何故か後継者として陛下から指名された時の残りの兄弟達の顔は今思い出しても愉快なものだった。
私が出来損ないとして振る舞っていたのはひとえに王座に興味がなかったからだ。
そして無駄な争いが煩わしかった為、敢えて出来損ないを演じる事で今日まで生き延びる事が出来たのだ。
後継者として指名され、その場で陛下が退位を意を示した事で同時に私に譲位する事を宣言された。
ここまで来るのにそこまで時間は掛からなかったが、時間の流れが違う人間界では既にリリーは十五歳になっていた。
離れている間、私が彼女を忘れた時は一度もない。
私達の魔力は確かに繋がっているから、その時受けた彼女の痛みや傷ついた心、その全てがまるで手に取るように私に伝わってきていた。
その度に血が滴る程きつく拳を握りしめ、今はまだその時ではないと必死で自分に言い聞かせその場を耐え忍んだ。
そして遂に待ち望んだ時が訪れリリーを迎えに行くと、目の前で彼女は使用人に痛めつけられていた。
家族にはなれないと理解しながらも、それでも家族として認められたいと長年願ってきた相手に告げられた一言は、彼女の心を壊すには十分すぎる程の威力があった。
私の腕の中で泣きじゃくるリリーを抱きしめ、まずは彼女の意向を確認する。
リリーを育ててくれた彼らへの、私から送るプレゼントはその後でも決して遅くはないのだから。
リリーの気持ちを確認すると彼女はあの時と変わらず、今でも私と共に生きたいと願ってくれていた。
彼女の気持ちは離れている間も分かってはいたが、本人の口から直接聴けるとはなんと甘美で禁断の果実のように魅惑的なのだろうか。今思い出しても子供のように心が躍ってしまう。
ふと、最後に見た彼らの姿を思い出す。
ああ、あれは実に愚か者にふさわしい幕引きだった。
私はあの日、今後二度と会うことのないリリーの元家族達へ、最初で最後の贈り物をした。
「私の妻を散々可愛がってくれた礼はきっちりしよう。私はお前達を傷つける事などしないし、それは今後も変わらない。そもそもそれは私の役目ではないからな」
私はね、お前達に感謝しているんだよ。
可愛いリリーをここまで追い込んでくれた事を。手加減なく痛めつけズタズタにしてくれた事を。
お前達がリリーを蔑ろにすればする程、彼女の心は人間界への未練を失くした。
今だってあれだけ求めていた実の家族よりも、たった一度会っただけの私を選んだのだから。
そしてつくづく人間は目先の物事でしか判断出来ないのだと哀れに思った。
リリーはある日突然魔力が枯渇したと言っていたが実際は違う。
彼女の魔力は枯渇したと思われたその日から、現在までずっと増え続けているのだから。
それは人間が認識出来る範囲を大幅に超えているため、魔力自体を感知出来なくなっているに過ぎない。
だからリリーの魔力は決して枯渇などしていない。その証拠に彼女は身体に不調を来してなどいないし、意識もはっきりしている。
彼らはこれから自らの手で、今後二度と手に入らないであろう珠玉を手放すのだ。
目の前で怯える哀れな人間共に、精霊王として笑顔を向ける。
私の顔を見て無様にも床に座り込み、身を寄せ合って怯えるリリーの大切だった者達へ。
愛するリリーに、私の選んだ愛し子への数々の仕打ちに対する褒美を与える為に。
「お前達には私から、その身に余る程の褒美を与えよう」
私から愚かなお前達に、そしてこの地獄のような楽園に、永遠の祝福を――。
end.
―*―*―*―*―
この後おまけが数話続きます。
29
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。
音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。
アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる