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第八話 貴方と生きたい①
しおりを挟む「お待たせ、ようやく君を迎えに来る事が出来た。さぁリリー、一緒に行こう?」
その声に恐る恐る振り返ると、ずっと待ち焦がれていた彼が微笑みを浮かべながら優雅に佇んでいた。
「ッ……フィル、」
「ちょっ、何を勝手に動いているのです‼」
「いっ……」
思わずフィルの元へ駆け寄ろうとしたわたしを、腕を掴んでいた侍女長がすかさず掴んだ手に力を込め、強制的に自分の元へと引き寄せた。
でもわたしはどうしてもフィルの元へ行きたかった。
会いたかったと目を見て伝えたかった。いつものわたしならただ暴力が終わるのを静かに待つだけだっただろう。
でも今目の前にはフィルがいる。
ずっと待ち焦がれた彼がすぐ側にいるのだ。
「っ……して……離して‼」
「いい加減その辺で離してもらえるかな?」
わたしが叫んだのと同時に彼が静かに告げた言葉は、確かに優しい物言いなのに何故か全身の血の気が引く程の威圧感があった。
それはわたしの腕を掴んでいた侍女長も同じようで、隣を見ると顔を真っ青にさせ小刻みに震えていた。
「リリー、君には怒っていないから安心して」
「フィ、フィル、あのわたし、」
「大丈夫だよ。さぁリリーこっちへおいで?」
フィルにそう言われた瞬間、わたしの身体は自然とフィルの方へと向かって歩いていた。
不思議だけれど、まるでなにか糸のようなもので身体を引っ張られているような奇妙な感覚がした。
彼の元へ辿り着くと、すぐにあの糸で引っ張られる感覚はなくなり、それとほぼ同時に気付けばわたしは彼に優しく抱きしめられていた。
「フィル……本当に、迎えに来てくれたの?」
「ああ、遅くなってしまってごめんね。痛かっただろう、リリーよく頑張ったね」
そう言って優しくわたしの頭を撫でてくれた彼は、あの日物置小屋で会った青年の姿のままだった。
色々聞きたい事も話したい事もあるのに、何一つ言葉にする事の出来ないわたしは、気付けば彼の腕の中で泣いていた。
「……っ、うっ、くっ……」
「よしよし、もう大丈夫だよ。私がずっと一緒にいるからね」
「っ、うっ、くっ……ふぃる……っ」
彼にしがみつき言葉も満足に出せず泣くばかりのわたしを、フィルは優しく包み込んでくれていた。
だが次の瞬間、両親の激しい怒号が聞こえてきた。
「この男はどこから入ったんだ‼警備は一体何をしている⁉」
「サーシャに何かあったらどうするの!?早く警備の者を呼んで‼」
彼らは今この瞬間も妹の身だけを案じている。
少し前のわたしならこの光景に少なくとも傷ついただろう。愛されないと分かっていてもどうしても心は切り離せないでいたから。
でもフィルが来てくれたからだろうか。
両親が妹を守るように抱きしめていても、以前のように心にナイフが突き刺さったような激しい痛みも、あの腕に抱きしめられたいと願う浅ましい思いも全てがなくなっていた。
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