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第六話 残酷な現実②
しおりを挟むアマンダさんの意図が分からずそのまま黙っていると、彼女は更に意地の悪い笑みを浮かべ言葉を続けた。
「あんたは最初から愛されていないのよ。旦那様も奥様も、あんたが大嫌い。ねぇ、本当は気付いているんでしょう?魔力が枯渇する前から疎まれていた事、この家の娘はサーシャお嬢様だけだって事」
先ほどの両親の会話を思い出し動揺していると、彼女は声をあげて笑い始めた。
「侍女長が言ってたけど、あんたのその黒い髪も容姿も、大奥様に生き写しなんですって。先輩の侍女達が話しているのを聞いたんだけど、なんでも奥様は亡くなられた大奥様に大層虐げられていたって話よ。愛する妻を虐げられて平然としていられる人間なんて普通はいないもの。旦那様にすら嫌われているのも納得するわ。その大奥様の生き写しのあんたが、愛されるなんて事、最初からあり得ないのよ。誰もあんたを愛さない、あんたは一生誰からも愛されないの!!」
目の前で楽しそうに話すアマンダさんを見て、わたしは咄嗟に違うと言いかけたが、さっき見た光景を不意に思い出した。
違う、アマンダさんは何も間違ってない。本当はずっと気付かないふりをしてきただけ。
だって気付かなければ現実にはならないから。
わたしは誰からも愛されないと受け入れなくて済むから……
形ばかりの貴族令嬢だった頃を思い出す。
教師に褒められた事が嬉しくて、母に報告にいったわたしを鬱陶しそうにあしらった姿を。
妹ばかりが愛されるのはあの子が妹だから、聖魔法が使えるから……ずっとそう思ってきた。
でもわたしが今までどれだけ努力をしても、認められたいと願っても、それは所詮無駄な足掻きだったのだろう。
涙が頬を伝う。
今まで認められなかった現実が、ここへ来て一気に押し寄せてきたかのようにわたしの身体はガタガタと震え、掴まれた髪が引っ張られ本来は痛いはずなのに、この短期間で痛みの感覚までもが死んでしまったかのように何も感じなくなっていた。
わたしの反応に満足したのか彼女は乱暴に髪から手を離すと、最後に思い切りわたしを蹴り飛ばした。
「それなのに、いつまでも幻想に縋り付いていい子ぶっちゃって……本当に虫唾が走るわ。まぁ、これで自分の立場を理解したなら、今後は突然姿を消すだなんて真似やめてよね。あんたは一生奴隷なんだから」
そう吐き捨てるように言ったアマンダさんは満足したのかそのまま自分の自室の方へ戻っていった。
「……ふふ」
その場で動く事も出来ずわたしは無様に床に転がったまま目を両手で覆った。
捨てられてからの日々の中、どんな暴力も暴言も何とか耐える事が出来ていた。今が一番辛いから、これ以上心が傷つく事なんてないと思い、何とか耐える事が出来ていた。
わたしにとって日常的な暴言や暴力が、どうして今日だけはこんなにも心が裂けてしまいそうな程痛むのだろう。
いや違う、本当は分かっている。
今まで目を背けてきた事実を、誰も口にしなかった現実を、他人の口から告げられたから今こんなにもショックを受けているのだ。
一体わたしは、あと何度こうやって傷つけば心が傷つかないでいられるのだろう。
殴られていない筈の胸が今もズキズキと痛み、わたしはその場で胸を押さえ背を丸めうずくまった。
「……ひっ、ぅ……ったい……痛いよぉフィル」
懐かしい名前を呼んでもこの声が彼に届く事はない、迎えに来る事などあり得ないのだと、わたしは改めて現実を突きつけられた。
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