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第五話 残酷な現実①

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 この屋敷でのわたしの立場は使用人以下だ。
 だから与えられる食事も、気が向けば施してもらえるという何とも気まぐれなものだった。
 前日もパン一つ貰えず、今日も仕事でミスをした為食事を抜かれる事が決まっているわたしは、ふらふらと歩いている内にいつの間にか両親と妹が暮らすプライベートエリアまで来てしまっていた。
 
 気付いた時にはだいぶ奥まったところまで来てしまっていて、慌てたわたしはすぐに引き返そうと後ろを振り向いたが、どこからか楽しそうな話し声が聞こえてきて、気づけばまるで吸い寄せられるように勝手に足が動き声のする方へと向かっていた。

 心のどこかではやめた方がいいと警鐘が鳴り響いているのに、私の足は声のする方向へと進んでいく。
 ドクン、ドクン、と心臓が大きな音を立ていつも以上に耳に響いている。

 物陰から恐る恐る覗いてみると、そこには両親と妹がアフタヌーンティーを楽しんでいる姿があった。
 自分とは違い綺麗で可愛らしいドレスを纏った妹は、最近飼い始めたという子犬と戯れる事に大忙しで、はしゃぐ妹の姿を見た両親は困った顔をしつつも彼女の喜ぶ姿を愛おしそうに眺めている。

「あの子にせがまれた時はきちんと世話が出来るのか不安だったが、大切にしているのを見て安心したよ」
「そうですね。わたくしもあの子が動物を飼いたいと言った時は不安を覚えましたが、あの子犬を迎えて正解でしたわ」
「サーシャは大事な一人娘だ。普段は気丈に振る舞っていても寂しさを感じていたのかもしれないな。サーシャにとってあの子犬が妹変わりなのだろう」

 笑い合う両親とは対照的にわたしの心は、ここ数年で感じた事がない程の絶望を味わっていた。

 ――サーシャは一人娘。

 (わたしは……?わたしはサーシャの姉でしょう?)
 (わたしはお父様とお母様の……子どもじゃないの?)

 まるでその会話が今初めて交わされたものではないかのように話をする両親の様子に、どうしてと叫びながら飛び出す勇気もなく、わたしは家族が立ち去ってもしばらくその場で茫然と立ち竦んでいた。

 
 一体どれくらいの時間そうしていたのか、ふと気づくと辺りは暗くなり肌寒くなっていた。
 どうせ今さら戻っても今日の食事を貰う事は出来ない。
 それにとても仕事をする気にもなれず、わたしはそのまま自室のある使用人棟に戻る事にした。

 とぼとぼと使用人棟に戻るといつも仕事を押し付けてくるアマンダさんが自室の前で待ち構えていた。

「ちょっとあんた。仕事もしないでどこをほっつき歩いてたのよ」
「……ご、ごめんなさ、」
「あんたが仕事をしないで姿を消すから、あたしが怒られたじゃないの!!」

 最後まで言い終わらないうちにアマンダさんは思い切り手を振り上げ、わたしを叩き付けるように何度も手を振り挙げた。

 「ご、ごめんなさいっ。わたし、」
 「言い訳なんて聞きたくないわ。あんたはあたし達使用人よりも立場が下なのよ。この際愚図なあんたにも分かるようにきちんと説明してあげるけど、あんたは奴隷なの、旦那様があんたを奴隷として扱えとあたし達に仰ったのよ。だからあんたは、あたし達が指示した事をきちんと正確にこなす必要があるの。分かる!?」

 床に転がり、丸くなるわたしにも、彼女の暴力が止まる事はない。
 そしておもむろにわたしの髪を掴み、目線を合わせてきたアマンダさんは心底楽しそうに微笑んだ。

「馬鹿なあんたにいい事教えてあげる。ねぇ、あんた元々疎まれていたみたいだけどそれは魔力の枯渇が原因なんかじゃないって知ってた?」
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