56 / 56
おまけ
幸福の園②
しおりを挟むそのうち貴方が死に、子孫の中に貴方と瓜二つの見た目をした子が生まれても、彼らもその瞳に最愛以外を映す事はなかった。
ふふっ、きっと貴方が壊れてしまったあの瞬間に、わたくしも同じように壊れてしまったのかもしれないわね。
貴方が狂い死に、その子孫も同じように壊れていく中で、女神となったわたくしに出来る事はただその姿を水盆から眺めるだけ。
そう、たったそれだけしか出来ない自分が、どうしようもなく歯痒くてならないの。
「ねえ、エドワード。わたくしまた、貴方の子ども達を救う事が出来なかったわ。貴方はこんな不出来な友人をどう思うのかしらね?」
もうそこにはいない、愛しい相手に向けわたくしは小さく呟いた。
そしてゆっくりと笑みを浮かべ、側に控える相手へと言葉を紡ぐ。
「愛というものは酷く複雑で歪よね。それでいてとても儚いの。そうは思わない?エド」
わたくしは傍に控えている新米天使へ向けそう投げかけた。
静かに控えている彼の表情に変化はない。ただいつもと同じだというだけ。
彼に変化がなくとも、魂の方はどうかしら?
まあ、それを知っているのはわたくしだけなのだけれど。
「アルテナ様、そろそろ」
「分かっているわ」
眺めていた水盆から目を離し、ゆっくりと席を立つ。
この後は各地に配置している部下からの報告会議があるから、そろそろわたくしも仕事に戻らなくてはいけないわね。
ふと踏み出した足を止め、後方の水盆を振り返る。
(今回もまた幸せにしてあげられなかった……)
「ごめんなさいね、エドワード。不甲斐ないわたくしを許してちょうだいね」
誰にも届く事がない程の小さな声で呟き、わたくしは会場の方へと歩みを進める。
だからきっと誰も気付かない。
わたくしがこの状況を心から楽しんでいる事も、わたくしが作り出す微笑みの意味も、何もかも。
彼らが狂えば狂う程、わたくしが幸福で満たされていく事も……。
神となった者は自分が決めた方法から力を得る事が許される──。
だからわたくしは、愛する貴方の子孫が壊れていく事で力を得るようにしたのよ。
わたくしは今でも貴方を愛してる。だから間違っても貴方の血筋を途絶えさせたりなどしないわ。
愛する貴方の為に、貴方が愛した国を同じように想い続け、今日もわたくしはあの世界を守護するの。
全ては愛する貴方の為に……。
わたくしは女神と呼ばれる唯一無二の存在。
わたくしが幸福を感じれば感じる程、世界は満たされ、そして平和になっていく。
でも世界が平和になる、その為には──、
「あなた達が壊れていなければならないのよ」
今回の結末もとても素晴らしいものだったわ。
さあ、次の物語はどんな結末でわたくしを楽しませてくれるのかしら?
end.
12
お気に入りに追加
275
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
君はずっと、その目を閉ざしていればいい
瀬月 ゆな
恋愛
石畳の間に咲く小さな花を見た彼女が、その愛らしい顔を悲しそうに歪めて「儚くて綺麗ね」とそっと呟く。
一体何が儚くて綺麗なのか。
彼女が感じた想いを少しでも知りたくて、僕は目の前でその花を笑顔で踏みにじった。
「――ああ。本当に、儚いね」
兄の婚約者に横恋慕する第二王子の歪んだ恋の話。主人公の恋が成就することはありません。
また、作中に気分の悪くなるような描写が少しあります。ご注意下さい。
小説家になろう様でも公開しています。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる