【完結】おはよう、僕のクラリス〜祝福という名の呪いと共に〜

おもち。

文字の大きさ
上 下
48 / 56
本編

幸せはどこ?・シャーロット視点⑨

しおりを挟む




 わたくしが殿下とエイブリー様にした事は、決して許される事じゃない。
 エイブリー様をあんな風にして、あまつさえお二人を引き裂いたわたくしが罰を受けるのは当然だと思う。
 でも、それでもわたくしの心は、この罰を受け入れる事が出来なかった。
 心の中では「どうして?」、そんな言葉が何度も浮かんでは消えていった。

 それでも現実は変わらない。
 わたくしはこれ以上苦しみたくなくて、必死で下働きの仕事をした。それは現実から目を逸らす為でもあった。
 来る日も来る日も、死に物狂いで働いた。
 あの男はわたくしに妙な真似はするなと忠告したけれど、わたくしにはそんな気力も度胸すらなかった。
 基本的に一人行動だけれど、他の人には見えない位置から常に男が監視しているのが視界の隅で確認出来た。
 そして男の視線には明確な殺気が込められていた。そんな相手に対して妙な真似をする勇気がわたくしにはない。

 あんな事をしでかしたわたくしだけど、死にたくなかった。
 容姿は変えられてしまって見る影もないけれど、それでも確かに死にたくないと心が叫んだ。
 自分でも図々しいのは分かっているけれど、それでも罰を与えられないように、殺されないように必死で目の前の仕事をこなした。
 それからの日々は男の指示の下、掃き掃除や洗濯、窓ふきなどの仕事を必死でこなした。
 
 季節が変わりこの屋敷で働くようになってから、気付けば半年もの時間が経過していた。
 わたくしには妙な行動を起こす意志がないと分かってもらえたのか、最近は男の纏う雰囲気が前より柔らかくなったように感じた。
 この頃のわたくしにはそれだけでも救われたような、許されたような気分だった。
 今まではずっと屋敷の人間と極力会わないような場所で仕事をしていたけれど、最近では少しずつ使用人とも交流を持つ事を許されたりもした。

 常に監視の目があるから下手な動きは出来ないけれど、それでも自分ではない人間との交流はわたくしの荒んだ心を修復してくれる作用があった。
 屋敷の使用人達はわたくしが口のきけない奴隷出身だと思っている。最近は影からではなく常に横に控え燕尾服を身に纏った使用人に扮した男がいる為か皆優しく接してくれる。

 自分のした事を忘れたわけではなかったけれど、わたくしはこの優しく過ぎていく時間がこの上なく心地の良いものになっていた。
 姿は変わってしまったし話す事は出来ないけれど、この先ずっと誠実な姿勢を見せ続けていたらいつか祝福を使ったというこの容姿を、元に戻してくれるのではないかと、そんな淡い期待も抱いていた。

 (いつか許され、そして叶うなら、殿下とエイブリー様へ直接謝罪をしたい)
 
 もう二度とお二人を傷つけたり他人を苦しめるような事はしないと、今のわたくしの姿を見て判断してもらいたい、そう思っていた。

 でもわたくしはどこまでも浅はかだった。
 わたくし自身の罪を軽く捉えすぎていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結】『私に譲って?』そういうお姉様はそれで幸せなのかしら?譲って差し上げてたら、私は幸せになったので良いのですけれど!

まりぃべる
恋愛
二歳年上のお姉様。病弱なのですって。それでいつも『私に譲って?』と言ってきます。 私が持っているものは、素敵に見えるのかしら?初めはものすごく嫌でしたけれど…だんだん面倒になってきたのです。 今度は婚約者まで!? まぁ、私はいいですけれどね。だってそのおかげで…! ☆★ 27話で終わりです。 書き上げてありますので、随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。 見直しているつもりなのですが、たまにミスします…。寛大な心で読んでいただきありがたいです。 教えて下さった方ありがとうございます。

処理中です...