42 / 56
本編
幸せはどこ?・シャーロット視点③
しおりを挟むわたくしが女神様から授かった祝福は、特別珍しくもない“調合”の能力。
しかも我が家は薬師の家系ではないから使い道もない。その能力を活かすなら、せいぜい薬師の家門に嫁ぐか、自分自身が薬師の道を選択するしかないのだ。
女神様の祝福が“繁栄”だと言うだけで殿下の婚約者に選ばれたハミルトン公爵令嬢が、せめて傲慢で自己中心的な相手だったなら、もっと強く両親に婚約者になりたいと願っただろう。
でも実際に茶会で話した彼女……エイブリー様は人当たりも良く、下位貴族の人間にも心を砕くとても優しい少女だった。
テオドア殿下にエスコートされお二人で茶会に現れた時は、悔しいけれど本当にお似合いだと思ったもの。
お互いがお互いを尊重し、尊敬と愛情を持って接しているのは他人であるわたくしにも充分すぎるくらい伝わってきたから。
(もう忘れよう)
(わたくしはスタートラインにすら立てなかったけれど、テオドア殿下が幸せならそれでいいじゃない)
苦しい程の恋心に強制的に蓋をしたわたくしは、変わらず血を流す自分の心から強制的に目を背け、忘れるという選択をした。
あの辛い失恋から数年が経ち、わたくしは感傷に浸らない程度には二人を祝福出来るまでに傷が癒えてきていた。
時間が傷を癒すという言葉があるけれど、本当にその通りだった。
時間が経過すると共に、友人となったエイブリー様やテオドア殿下とも、自然な表情で会話する事が出来ていたと思う。
(わたくしもいい加減、前を向かないと)
(そろそろお父様の持ってくる縁談の話にも耳を傾けてみようかしら)
そんな風に前向きに思えるくらい前へ進めていたと思う。
なのに……。
「僕なら叶えてあげられる。君のその恋心を、現実にしてあげる事が出来るんだ」
あの日そう言って子どもみたいに笑った彼に、わたくしはどう返答を返せばよかったのだろう。
その年家族で領地へ向かい、みんなで休暇を楽しんでいたわたくしは、隣の領地だという少年と偶然話す機会があった。
お父様に用事のあったチェスター子爵に同行していた彼、ライアン・ジョン・チェスターとの出会いは、大人が仕事の話をしている間子ども達だけで遊んでいなさいという理由でライアンのお守りをさせられた為だった。
彼に対する最初の印象は『顔の綺麗な男の子』、ただそれだけだった。
でも二人で過ごしていくうちに、意外にもライアンは全てに対して冷めている事、そして経験した事のない程の強烈な刺激を求めている人だという事を知った。
どこか冷めているライアンにわたくしが一方的に構う、そんな毎日だったけれど次第にライアンが心を開いてくれるのが分かって純粋に嬉しかった。
前世で独りぼっちだったわたくしだからこそ、放っておけなかったのもあったけど、話してみると意外と物知りで興味のある事には寝食も忘れ没頭するライアンを放っていけなかったというのもあった。
2
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
君はずっと、その目を閉ざしていればいい
瀬月 ゆな
恋愛
石畳の間に咲く小さな花を見た彼女が、その愛らしい顔を悲しそうに歪めて「儚くて綺麗ね」とそっと呟く。
一体何が儚くて綺麗なのか。
彼女が感じた想いを少しでも知りたくて、僕は目の前でその花を笑顔で踏みにじった。
「――ああ。本当に、儚いね」
兄の婚約者に横恋慕する第二王子の歪んだ恋の話。主人公の恋が成就することはありません。
また、作中に気分の悪くなるような描写が少しあります。ご注意下さい。
小説家になろう様でも公開しています。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる