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本編
幸せはどこ?・シャーロット視点②
しおりを挟む五歳なった年祝福検査を受ける為、初めて両親と共に神殿を訪れた。
前世のわたくしは特に信仰している宗教はなかったから、何かひとつの神様を熱心に信じた事はなかった。
でもこの世界の人々は違う。 わたくしの両親も屋敷の使用人も、皆女神アルテナ様を信仰している。
前世の記憶が強いわたくしにはなかなか理解出来ない光景だったけれど、あの世界にもたくさんの宗教があった。
それに何かに縋る事は、別に悪い事だとは思わない。
この世界の女神様は祝福を授けて下さるだけで、あとは人間達の力でその祝福を使い生活を豊かにさせなさいとの教えのようだった。
決してアルテナ様頼りではない、大切な決断はどんな瞬間も自分達人間に託されている、そんな信仰は純粋に好感が持てた。
だからこそわたくしは、前世で時々ニュースなどで見た洗脳タイプの宗教ではなさそうだったので、形ばかりの信仰を続けていた。
あの日家族で出向いた神殿で、わたくしは天使を見た。
司祭の長い話を半分以上聞き流しながら自分の検査の順番を待っていたわたくしは、ふと同じようにこの場に来ている子供達の顔を盗み見るように見渡した。
そんな時、わたくしよりも前列に座っていた子どもの名前が呼ばれ、その子供と入れ違いで部屋から出てきた人物を視界に映した途端、心臓が大きく高鳴った。
相手はわたくしの事など視界にすら入れてはくれていないのに、どうしてだか私は一瞬たりともその子供から目が離せないでいた。
癖のない少し長めの真っ直ぐな銀の髪も、宝石をはめ込んだかのような深い海を連想させるブルーの瞳も、彼の良さを引き立たせる脇役にしか過ぎないと子どもながらに思った。
あどけない表情なのに纏う空気は他の子ども達とは明らかに違っていて、そのギャップにも私は強く魅了され、同時に強く引き付けられた。
前世と今生で唯一変わらなかった自分の理想とする異性の容姿を持つ相手が目の前に現れ、その時のわたくしは酷く興奮していた。
そして帰りの馬車の中、先程見た男の子の事を両親に話すとすぐに彼の名前を知る事が出来た。
テオドア・ルイ・グレンヴィル──この国の第一王子殿下であり、未来の国王となるべく存在その人だった。一度目にして名前を知ると、もうこの気持ちに蓋をする事が出来なくなっていた。
この世界はわたくしが前世願っていた幸福そのもの。
だったらテオドア殿下も、わたくしの婚約者になってくれるかもしれない。
今は違くても婚約者にさえなる事が出来れば、わたくしを愛してくれるかもしれない。
気付けばわたくしは両親に神殿で見たテオドア殿下と婚約がしたいと、そう口にしていた。
娘を愛している両親、そしてわたくしの理想を具現化したこの世界なら、テオドア殿下と婚約する事は可能のはず。
だけど現実は、貴族の子どもである私の一言で動く程、簡単なものではなかった。
「──殿下の婚約者はハミルトン公爵家のご令嬢に決まった」
そう言って申し訳なさそうな表情で謝るお父様に、どうして自分ではないのかと食い下がると、殿下の婚約者になったハミルトン公爵令嬢は、この世界でも希少と言われている“繁栄”のギフト持ちだからだと優しく教えてくれた。
(この世界は私の為の世界ではないの?)
生まれてからまだ五年しか経っていないけれど、全てが前世で夢見ていたわたくしの幸福をそのまま形にした、わたくしの為の世界なのに、どうして殿下の婚約者になれないの?
そんな考えがずっと頭の中をぐるぐると巡り、その日から自然と顔も知らない彼の婚約者と、テオドア殿下が並び立つ姿を想像するようになった。
わたくしは未だテオドア殿下とは話した事はないけれど、きっと素敵な人に違いない。
そんな彼の横に堂々と並び立つ権利を得た令嬢が心底羨ましいと思った。
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