32 / 56
本編
一筋の光⑤
しおりを挟む「念のため彼個人の肖像画を老人に見せたところチェスター子爵子息で間違いないとの事でした」
「しかし、その姿を消した孤児や浮浪者はどこへ消えたと言うんだ……まさか殺めたのか?」
「その点についても俺の部下にも協力を仰ぎ、周辺国なども含め足取りを探ってみました。残念ながら全員を特定する事は出来ませんでしたが、一人だけ接触したと見られる元孤児が国境近くのスラム街で発見されました。その元孤児は酷く錯乱し自分の名前も言えない状態でしたが、魅了を使われた痕跡を確認する事が出来ました」
「それは本当か!?」
リアムの報告に身を乗り出す宰相の顔は青ざめていた。
「はい。俺自身が最終確認をしたので間違いはありません。その元孤児は強く魅了を使われたようで、治療を施しても元の生活を送る事は今後難しいと思われます。ただ、その孤児とチェスター子爵子息が会話をしていた所は話してくれた老人以外数人の領民が目にしていました。なので魅了の術者は子爵子息で間違いはないかと。ただ最終的には彼自身の魅了検査をしないと決定とはいきませんが」
……ようやくここまで辿り着いた。
クラリスがおかしくなってから魅了にかけられている事は分かっても術者の特定も出来ずずっと足踏み状態だった。
「そうか。リアム殿、ご苦労であった」
「いえ、俺は殿下がどうしても違和感を覚えると言ったその言葉を信じて調査しただけに過ぎませんよ。あの時殿下が“少しの違和感”を流していたら正直ここまで辿り着く事がなかったと思います。敵はそれほど周到に“魅了”の祝福を隠していた」
リアムと陛下の会話が聞きながら僕はクラリスを思い浮かべていた。
あの日、相談を受けると言っていた彼女を一人にしてしまったのは間違いなく僕の失態だ。
最後見た溢れんばかりの笑顔が頭から離れない。同時にあの冷たく少しの感情もない視線を向けてきたクラリスを思うと僕は自分自身が許せなかった。
「陛下、僕からひとつ提案が御座います」
「テオドア、お前に何か考えがあるのだろう?」
「バルセル侯爵令嬢との正式な婚約発表の夜会で、あの二人を追及したいのです。その場であれば二人は怪しむ事もなく夜会へと足を運ぶでしょう。その場で二人を追及し断罪したいのです」
「そうだな。敵を油断させる事は必要だろう。相手は相当頭の切れる相手なようだからな。当日はリアム殿にも護衛に当たってもらおう、すまないが頼まれてくれるだろうか」
「かしこまりました。殿下のお側に控え万が一の事態に備えたいと思います」
ようやくここまで来た。
クラリスを取り戻す、その道がようやく見えた気がした。
最後に僕は陛下の方へ視線を向け、口を開いた。
「陛下に王太子として、そして貴方の息子としてお願いが御座います」
「……その顔は何か心に決めた事でもあるんだろうな。いいだろう、言ってみなさい」
「どうか僕の最後の我儘を聞き届けていただきたく思います。僕は──」
0
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる