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本編
一筋の光③
しおりを挟む慌てて重く苦しい程の激情が書かれた日記から目を離し、ふと日記を持つ手元へ視線を向ければ、自分の手が小刻みに震えているのが目に留まった。
その瞬間、僕は先程まで自分の心に浮かんでいた、たったひとつの考えに愕然としてしまった。決してこの日記に影響されたからではないと自分に言い聞かせるが、果たしてそれが本心なのかは今の僕には答えられない。
だって僕はこの人物の意図する答えと、自分の手の震えの意味を正しく理解してしまったからだ。
(この人物は……)
先程から心臓が鼓動する音だけが嫌に耳に纏わり付き、まるでその存在を強く主張しているようだった。
呼吸も乱れてしまっているのが分かり僕は落ち着く為、一旦日記をテーブルへ置き、ひとまず山積みされている書物を上から順番に確認する事にした。
所々書き殴った後があり、この人物が酷く焦っていた事が伝わってきた。
そこには祝福が後発的に発現した事例や、祝福の概念についても、僕達が常識として考えてきた在り方そのものを覆すような内容が書かれていた。
まず祝福が後発的に発現した事例。それはこの資料を制作した本人に起こっていた事だった。
彼は五歳の時に神殿にて祝福検査を行い、ひとつ目の祝福を授かっている。その後数年の間はひとつの祝福だけだったのが、ある日突然ふたつ目の祝福が発現したと記されていた。
どうして突然ふたつ目の祝福が発現したのかまでは最後まで記されていなかったが、次のページに書かれていた祝福に関する概念について僕は驚きを隠せなかった。
そもそも僕が生きてきた中で知識として得ていた祝福の在り方と、この人物が辿り着いた祝福の在り方がまるで違っている点だった。
本来祝福とは、授かった能力の言葉の意味を強く反映させたものだと考えられている。
しかしこの人物が辿り着いた在り方は、そもそもの祝福根本から考え方が違っていた。もっと柔軟で、それでいて解釈を広げる必要があったのだ。
例えば、僕の祝福は“維持”だが、今まで僕らは食品の鮮度を保つなどの効果“だけ”があると考えていた。
しかしこの人物の辿り着いた考えでは、もっと祝福に対する解釈を広げる、つまり“維持”のギフトひとつとっても食品だけではなく、例えば怪我が酷くならないように現状を維持したり、それこそ年を取らないように……なんてことが可能になるかもしれない。
これが可能なのだとしたら、今よりもっと様々な事が出来るようになる。
最後まで読み終えた僕は、国王陛下へ謁見する為に急いで部屋から飛び出した。
急いで話がある旨を伝えると、陛下は忙しいのにも関わらず宰相と共に謁見の間へと姿を現した。
先程までいた部屋の事、そしてあの部屋から持ち出した一冊の書物を陛下へと手渡した。
「これは……テオドア、その話は本当なのか」
「僕がこの目で確認したので間違いありません。それに僕の言ってる事の裏付けはこの書物がしてくれるのではないでしょうか」
「しかし、祝福を複数所持している人間がいて、ましてや過去この国の王族がそれに該当していたとは……」
父上が驚くのも無理はない。僕だって何度もあの書物を読み直したくらいなのだから。
「そこに書かれている事が真実ならば、今回の犯人は祝福を複数所持している可能性があり、さらに殿下の辿り着いた答えと同じような考えに相手も辿り着いている可能性があります。しかも上手く“魅了”の祝福を隠す事の出来る祝福を授かっているのかと」
僕の言葉に陛下も宰相であるクラリスの父君も言葉を失くしている。
この書物が出口のないこの件の突破口になるかもしれない、僕は矢継ぎ早に言葉を続けた。
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