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本編
真実はどこにあるのか②
しおりを挟むクラリスを必要以上に刺激しない為、席が近くなったからと言ってすぐには話をかけたりはしなかった。
そして授業が終わりクラリスがクラスを出るタイミングで、彼女へと話しかけた。
「クラリス」
「……王国の若き太陽にご挨拶申し上げます」
「少し話がしたい。彼が共に居ても構わないから」
「私達に話をする必要はないと申し上げたはずですが」
相変わらず嫌そうな態度を隠そうともしないクラリスだったが、ふと僕の隣に控えていたリアムへと視線を移した。しかしすぐに視線をチェスター子爵子息へと移し、彼女は楽しそうな声色で囁いた。
「ライアン様、本日は西側にあるテラスで昼食を取りましょう?」
「え、ええそれは構いませんが、殿下の事はこままでいいのでしょうか?」
「ああ、それは構いませんわ」
チェスター子爵子息へと向ける綻ぶような笑顔とは対照的な無感情の顔を向けられ、僕は内心ひるんでいた。
ただどうにかクラリスとリアムの視線を十秒間合わせなければならないと思い、再度彼女へと話しかけた。
「お願いだ、クラリス。僕ときちんと話をしよう」
「私は殿下と話をする気はないわ。さあ、ライアン様行きましょう?」
そう言うとクラリスは僕の横を颯爽と通り過ぎ、クラスから出て行ってしまった。
リアムの言っていた十秒間にはまるで届かない秒数しか彼らは視線が合っていない。
計画の失敗に内心項垂れるしかなかった。
その後も変わらず授業を受け、夕方僕はリアムを伴って自分の部屋へと戻った。
部屋の扉が閉まるとすぐに、リアムが口を開いた。
「やはりこの短い期間では正確な診断は行えませんでした」
「やはりダメか」
僕が内心項垂れていると、リアムがですが、と言葉を続けた。
「俺も正直とても驚いているんですが、殿下の婚約者は現在、“魅了”の祝福を施されていると微かですが出たんです」
「“魅了”?しかし“魅了”の祝福は現在禁忌に指定され、仮に授かっていたとしても対象者は皆能力を封印されている筈だよな?」
「ええ、そうです。ですが俺の祝福から読み解くと、彼女は現在“魅了”が施されている状態なんです。ただ禁忌の祝福については、殿下もご存知の通り一般人には開示されていないものになりますので、俺も詳しくは知らないんです」
リアムはそうはっきりと口にした。
だとしたらクラリスの突然の変化は“魅了”による変化だと言うのか。
そもそも祝福検査を受けた際、禁忌に指定されている祝福を授かっていると分かった時点で、神官によって封印されている筈だ。
通常であれば禁忌の祝福持ちは存在していない事になっている。
クラリスの変化が“魅了”によるものだとしたら、もう僕達個人の問題ではなくなってくる。それでも今の僕に出来る事として、まずはその“魅了”について調べる事が先だろう。
僕は食い気味にリアムを問いただした。
「その“魅了”について分かる資料は、祝福管理局にはないのだろうか?」
「そうですね、少なくとも俺たち職員が簡単に閲覧出来る場所にはありません。殿下の方で何か調べる事の出来る伝手はありますか?」
「……もしかしたら一部の人間しか立ち入る事の出来ない禁書庫にあるかもしれない。僕はそこを調べてみる」
「分かりました。俺も何か管理局の方で調べられないか同僚に連絡してみます。それともうひとつ、殿下にお伝えする事があります」
そこでリアムは一度言葉を切り、続く言葉を慎重に選びながら言葉を紡いだ。
「今日初めてご令嬢と一瞬ですが視線が合わさって、違和感を覚えたんです。どんな祝福にも距離の差はあれど、術者が近くにいる事が発動の条件なのは殿下もご存じですよね?でも今日お姿を確認したご令嬢に掛けられている、“魅了”の術者の名前が浮かび上がってきませんでした」
「それはどういう事だ」
「俺の祝福は対象者と視線を合わせて初めて効果を発揮するのですが、その際に対象者に掛けられた祝福とその術者の名前が頭の中に浮かび上がってくるようになっているんです。今回の場合一瞬だった事もあり正確ではありませんが、術者の名前が浮かび上がってこない事に違和感があります」
「術者が存在しないなんて事はあり得ないよな?」
「そうです、だからこそ本来禁忌の祝福に接点がある筈のない彼女が、どうして接触するに至ったかきちんと経緯を調べる必要があると思います。その中で必ず“魅了”の術者の姿が浮かび上がってくるはずです」
リアムの言葉に僕はすぐに図書室にある限られた者しか入室を許されない禁書庫への入室許可証を陛下へと申し出た。
対するリアムはクラリスの周辺に怪しい人物がいないかの調査をする事になった。
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