14 / 56
本編
真実はどこにあるのか①
しおりを挟む自室に戻った僕は、その足で急いで机に向かい一通の手紙をしたためた。
それは世界中で祝福を受けた人間を管理、研究している祝福管理局に当てたものだった。
クラリスはあの子爵子息に対して好意を抱いていると言っていたけれど、僕にはどうしてもクラリスの本心だとは思えなかった。
それにあのテラスで放った言葉こそが本心なのではないかとすら考えてしまう。
僕には見えない、何か黒い力が働いているとしか思えなかった。だからその辺りも調査を依頼したいと思い手紙をしたためた。
ただクラリスの異変の裏に誰が関わっているのか分からない為、手紙には内密に相談したい事があるとだけ書き記した。
そして数日後、祝福管理局で係長を務めているという男が僕を訪ねて来た。
「お初にお目にかかります、祝福管理局、研究科で係長を務めているリアム・ロバート・テイラーと申します。テオドア殿下、早速ですが本題に移ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、リアム殿。この度はご足労いただき感謝する。早速だが本題に移ろう」
そして僕はリアムにクラリスの身に起きた異変を順を追って説明した。
前日まで普段と変わらなかった婚約者が突然他の異性に好意を抱いた事。心変わりならどんな人間でも可能性はあるだろうけど、僕達の場合は普段のクラリスの行動とは真逆の行動を取るようになってしまった事、そして先日のテラスでの一件も合わせて、全てを包み隠さずリアムに話した。
僕が話をしている間、彼は時々何かを考えるような仕草を見せていたが、特に途中で話に割って入る事はなかった。
「今僕が伝えた事だけでは分かりにくいかと思うので、出来れば貴方には一度クラリスと直接顔を合わせていただきたい。ただ顔を合わせるに当たってひとつだけ気がかりなのが、彼女が僕の願いを素直に聞いてくれるとは思えない点だ。きっとリアムと顔を合わせるよう伝えたら確実に逃げてしまうだろう。そこで提案なのだが、どうか僕の侍従として学園に共に行っていただく事は可能だろうか?」
「そうですね、ご令嬢がそのような状態なのでしたら素直に話を聞いてくれるとは思えないので、俺も殿下の意見には賛成です。ちょうど俺と殿下は年も同じですし、新しい侍従として学園に通う事は誰も不思議に思わないでしょう」
リアムにも了承を貰い、僕はほっと安堵のため息を吐いた。
知らず知らずのうちに握った拳にも力が入っていたようだった。
「貴方自身も祝福を受けているのか?」
「ええ、むしろ今回は俺が適任だと思いますよ。俺の祝福は“検閲”という能力で、対象者が不正を働いていた場合相手を判別する事も出来るし、対象者にかけられた祝福の内容とその術者を見分ける事も出来るんです」
「それは凄いな」
“検閲”の祝福は大変希少だと聞く。そんな彼が協力してくれると言ってくれた事が、僕にはとても心強かった。
もしクラリスに何かしらの祝福が使われているのだとしたら、彼の祝福で明らかにする事が出来るかもしれない。僕にとってリアムは一筋の光のように感じた。
すぐに準備を整え学園リアムを伴って行動するようになった。
だが依然クラリスには煙のように巻かれてしまい会う事はあろか姿を見る事も授業の間だけとなってしまっていた。
「なかなか婚約者に会えませんね。これでは判断の仕様がない」
「すまない。クラリスは僕と会話をする事を酷く嫌がるからいつも逃げられてしまうんだ」
僕の言葉にしばらく考える素振りを見せていたリアムは、おもむろに口を開いた。
「話す事が無理なのであれば、十秒間視線を合わす機会を得る事は出来ますか?俺の祝福は対象者と視線を合わせる事でより効果を発揮するんです。だから少しの時間でも視線が合えば、大まかにはなりますが調べる事が出来ます」
「視線を合わす、か……。リアムの提示する十秒間は難しいかもしれないが、彼女の座席付近に席を移してもらえるかどうか内密に教員に頼んでみよう。授業が終わったタイミングで僕がクラリスに話かけるから、リアムはそこで目線が合わさる機会を伺ってほしい」
「わかりました。では早速、やってみましょう」
こうして僕は内密に教員に頼み込み一度だけと約束の元、クラリスの座席と近い場所へと移動させてもらえる事になった。
1
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……


【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる