10 / 56
本編
無力さを知る①
しおりを挟むあれから何度もクラリスと話し合いの場を設けようとしたけれど、クラリス本人が僕と会う事を拒否していて一向に向き合う事が出来ずにいた。
この学園では授業以外の時間を同姓と過ごしている者が多く、更に今のクラリスはチェスター子爵子息と常に行動を共にいている為、声を掛ける瞬間がなかった。例え声を掛けてもまるで聞こえないかのように僕の存在を無視するし、先日の中庭での彼女の発言を大勢の生徒が聞いてた。その中で僕が実力行使に出る事は更なる誤解を生みかねない為、八方塞がりの状態だった。
そして彼女の方は今日も初めから僕の存在などなかったかのように、連日チェスター子爵子息と行動を共にしている。そのせいか、二人の姿を目にした他の生徒達が、学園内でのクラリスの行動を問題視する声を上げ始めていた。
婚約者がいる身で他の異性に纏わり付き、正当な婚約者を蔑ろにする。
どんな相手でも不誠実だけれど、今回の場合相手は王族である僕だ。
クラリスと親しかった女生徒達は、彼女と自然に距離を取るようになっていた。
あれだけ多くの人間に慕われていたクラリスの周りにいるのは今や子爵子息だけ。
そしてクラリスを根気強く説得するのは、親友であるバルセル侯爵令嬢ただ一人。
今だってどんなに邪険にされても、爵位を笠に声を荒げられようとも、バルセル侯爵令嬢だけはクラリスを説得し続けた。
(それでも結果は変わらない)
学園内では子爵子息と仲睦まじく過ごすクラリスを見つけ、その度に僕は心の柔らかい部分が傷つきダラダラと血を流していくのを感じた。
僕が近づく事さえ今のクラリスは嫌がり避けられる為、彼女への説得は友人であるバルセル侯爵令嬢も共に行ってくれた。
「クラリスお願いだ、きちんと二人で話がしたい」
「何度来ても答えは同じよ。私は貴方との婚約を継続する意思はないの」
「エイブリー様、殿下と一度きちんとお話をされるべきですわ」
「シャーロット様は無関係なのだから黙っていてちょうだい」
「……っ!!」
「クラリス、彼女は君の友人だろう?どうして君はそんな酷い言葉を言えるんだ!」
少し前のクラリスでは考えられない程の無神経な発言に、自然と注意する口調が強くなる。
あまりにも変わってしまった彼女を直視するのは正直かなり辛かったけど、現実から逃げるよりもクラリスを失う事の方が僕には恐ろしくて、どうにか元の彼女に戻って欲しくて必死で説得を試みた。
しかし僕の思惑とは裏腹にクラリスの態度が変わる事はなかった。
「これは私と殿下の話であって、シャーロット様は部外者でしょう?どうしてそうまでして首を突っ込みたがるのかしら?」
「わ、わたくしはただっ!!」
「クラリス、いい加減にするんだ。一体急にどうしたんだ、いつもの君らしくないじゃないか」
「いつもの、とはどういう姿が、殿下にとっての私なのでしょうね。本来の姿はこちらかもしれないのに、知ったような口を聞かないで」
「クラリス……」
そのあまりの物言いに僕は愕然としてしまった。
確かに僕はクラリスの全てを知っているわけじゃない。でも彼女と過ごした確かな時間があった。
その二人の絆すら否定する彼女の物言いに、握りしめていた拳に力が入った。
「お話はそれだけ?こんなくだらない事で一々呼び出されたら堪らないわ」
心底嫌そうな表情をしたクラリスはそう呟くと、横にいる子爵子息と共に部屋を後にした。
悔しいけれど、今の僕にはクラリスの気持ちを変える事が出来なかった。
まるで僕のクラリスに対する気持ちを嘲笑うかのように、彼女の行動は制御が利かなくなり、だんだんと彼女を慕っていた者が離れていくのをただ見ている事しか出来なかった。
1
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
君はずっと、その目を閉ざしていればいい
瀬月 ゆな
恋愛
石畳の間に咲く小さな花を見た彼女が、その愛らしい顔を悲しそうに歪めて「儚くて綺麗ね」とそっと呟く。
一体何が儚くて綺麗なのか。
彼女が感じた想いを少しでも知りたくて、僕は目の前でその花を笑顔で踏みにじった。
「――ああ。本当に、儚いね」
兄の婚約者に横恋慕する第二王子の歪んだ恋の話。主人公の恋が成就することはありません。
また、作中に気分の悪くなるような描写が少しあります。ご注意下さい。
小説家になろう様でも公開しています。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる