6 / 56
本編
それはあまりに突然に②
しおりを挟むクラリスの様子を気にしつつも政務を滞りなく終え、寮へ戻る頃には既に日付が変わってしまっていた。
彼女に付けた護衛からは問題はなかったと報告を受けていたから会うのは今すぐでもなくてもいい、クラリスももう休んでいるのだからと思い、僕はそのまま男子寮へと戻った。
そして朝になりいつも通りクラリスを迎えに女子寮の正門に向かうと、約束の時間になっても一向に彼女は姿を現さなかった。
「クラリスに何かあったのだろうか?」
「殿下、私が中の様子を見てまいります」
そう言い残し傍に控えていた護衛は、女子寮の寮母の元へと向かった。
昨日付けた護衛からは女子生徒との話が終わり、彼女はすぐに寮に戻ったと確かに報告があった。
(その時も変わった様子はなかったと聞いていたのに……)
そんな風に考え込んでいる間に女子寮の入り口から護衛が走って戻ってくるのが見えた。
はやる気持ちを抑え、僕は冷静に護衛に尋ねた。
「クラリスは具合でも悪いのか?」
「……っい、いえ、ハミルトン公爵令嬢は既に学園に向かわれたとの事でした」
「まさか」
「私も不思議に思い何度も確認したのですが、寮にいるご令嬢の部屋付きの侍女にも確認を取り、既に寮から出た後だとの事でした」
護衛の報告を聞き、僕は言葉を失っていた。
この二年間、一度だってクラリスと別々に学園に向かった事などない。なのにどうして今日は黙って一人で学園に向かってしまったのか。
(やはり昨日、何かあったに違いない)
(クラリスが僕に黙って一人で行動する事なんて一度もなかったじゃないか)
どうして急に行動を変えたのか理解出来ない僕は、急いで学園へと向かった。
(もしかして、昨日僕がしつこく口を挟んだから気を悪くしてしまったのかもしれない……)
(会ってきちんと謝罪しよう)
クラリスが先に行ってしまった原因が分からない以上直接聞くしかないと思い、僕は学園に着き次第すぐに彼女の姿を探した。しかし教室を確認しても肝心のクラリスの姿はない。
普段の彼女の行動とはあまりにかけ離れていて、先ほどから嫌な感覚が身体中をかけ巡っていく。
食堂や聖堂、ありとあらゆる場所を探してもクラリスの姿を確認出来ない僕は、いい知れぬ不安を覚えた。
そんな時いつもこの時間は静かな筈の中庭に、人だかりが出来ているのが目に入った。
ゆっくりと近づき、人混みを覗き込むとその目の前の光景に僕は言葉を失った。愛する婚約者は僕以外の男の腕を取り、満面の笑みを浮かべていた。
(クラリス……?)
一瞬理解が遅れたが、その意味を正しく理解した途端僕はカッと頭に血が上り、気付いたらクラリスと横にいる男の元へ駆け出していた。
「っ、クラリス!!」
名前を呼びながら彼女の腕を掴むと、それまで横の令息の笑いかけていたクラリスがこちらを向く形になり、今日初めて視線が交わった。
(どうして……どうしてそんな目で僕を見るんだ)
振り向いたクラリスの、そのあまりに冷めた瞳に、全身の血の気が引いていくのが分かった。
昨日まで確かに熱の籠った眼差しで見上げてくれていた瞳も、今は見知らぬ人間に触れられた時相手へ向けるような……酷く冷めた視線を向けられていた。
クラリスのあまりの態度に一瞬反応が遅れた僕は、はっと我に返りすぐさま彼女の腕を掴みそのまま叫ぶように言葉を発した。
1
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。
水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。
その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。
そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる