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プロローグ

女神からの贈り物②

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「僕の祝福は“維持”、なのですか?」
「はい、殿下。“維持”の祝福は、食物の状態を維持したり品質を保つのに大変役立つ作用でございます。同時に保冷の役割も果たしますので、使い方次第では我がグレンヴィル王国の更なる発展に繋がっていくでしょう」

 自分に対し目線を合わせ優しく説明する神官を、真っ直ぐな眼差しで見つめる少年は、このグレンヴィル王国第一王子にして次期王太子である、テオドア・ルイ・グレンヴィルその人である。

「祝福は女神アルテナ様からの贈り物。例え殿下と言えども使い方を誤ってはなりません」
「もちろん分かっています。アルテナ様に誓って悪用したりなどしません」
「殿下は聡明な方。必ずや祝福を使いこの国を更により良いものにしていく事でしょう。アルテナ様、どうかこの幼い王太子殿下にご加護があらん事を」

 従者や護衛と共に神殿を後にした幼い少年は、道すがら自身に贈られた祝福を思い出し、嬉しそうに笑みを零した。
 
「僕もいただいた祝福を使い、父上やおじい様のような立派な国王になりたいな」
「テオドア殿下なら必ずや賢王になりましょう。わたくし共も殿下をお支え出来るよう、精一杯務めさせていただく所存でございます」
「本当?そうなら嬉しいな。僕、今よりもっともっと沢山の事を学んで、一日も早く祝福を自由に使えるようになりたい!そして、この国を今よりもっと豊かに出来るようにしたいんだ!!」
「ええ、殿下ならば必ずや成し遂げましょう」

 まだ幼い王子の未来へ向ける熱い眼差しに、彼の傍に控えていた者達は微笑ましく、中には目頭を押さえて聞き入っている者もいた。

 グレンヴィル王国現王の息子として生を受けたこの少年は、大変愛らしく、見る者を魅了してやまない。
 そして数代前の賢王と呼ばれた人物に瓜二つな事から、親世代からの期待も非常に大きかった。
 既に高位貴族の中には自分の娘を婚約者にと願う者もいる。
 しかしそれはきっと“次期王太子”だという理由だけではないだろう。
 王妃譲りの人目を引く儚い容貌に、王族特有の銀糸のようなさらさらとした真っ直ぐな髪。宝石のサファイアを彷彿とさせる深い海のような瞳の美貌の王太子。そして何よりも人懐っこい愛らしい表情とその態度に、この場にいる者全てが幼い王子に対し敬愛の念を抱いていた。

 だが、同時にこの場にいる者達は思った。
 確かに賢王は素晴らしい統治を行った。それは記録にも記されている。
 だが彼の人生は決して幸福だと言い難いものだった。
 まだ世間の穢れを知らないこの心優しい王子が、この先の人生で世の中の醜い部分を知る事もきっとあるだろう。理不尽な事やどうにもならない不条理さを経験し、例え苦しい程の困難に見舞われたとしても、どうか今日という日に感じた己の気持ちを忘れないでほしい。

 そう願わずにはいられなかった──。
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