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シーズン Ⅰ

ー第3話ー 鞍馬天狗

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20XX年 X月 X日
記録者 警視庁捜査一課3係 捜査官御坂将斗警部補
つい先日の事。ヤクザの事務所が襲撃され、生安(*1)の要請の下現場検証に入った。
(*1生活安全課)
元々生安が目を付け、監視の対象としていた為、発見が早かったとの事。
生安の話しによると当事務所は違法な高利貸しをしている疑いがあり、それが監視対象とした理由との事。
その為、現場に入った我々捜査一課もヤクザ同士のいざこざでは?、と考察した。
しかしその考えはあまりにも呆気なく打ち砕かれる。
何故ならその現場はあまりにも異質、いや異常なものだったからだ。
そしてその事は私だけではなく、多くの捜査官も感じた事だろう。
実際多くが現場に入り、言葉を失い、しばし立ちつくしていた。
現場の有り様を一言で言えばさながら重機が暴れ回った様な惨状。
しかしこの事務所に重機が入れるような広さ、大きさは無い。
だが壁に残された爪痕のようなものは重機でもなければ説明が付かない程深く、大きなものだった。
そしてより異常なのは被害者の状態。
全てがそうなっていた訳ではなかったが、真っ二つにされた遺体が発見された。
その遺体を病理解剖してみると実際に見た時も思ったが、非常に鮮やかに切断されていたとの事。
流石に重機でもそんな事は不可能だ。
一応切断を目的とした重機はある。しかしそれでこんな鮮やかな切断面は出来ない。
そして捜査が進み、被害者全員が切り殺され、つまり斬殺されたと解る。
しかも使用された刃物は全て同一の物である可能性が高いと。
なら単独犯か?。その事実は意外に思えた。現状から複数犯の可能性を疑っていたからだ。
そして捜査は順調に進んでいる。と思ったのは最初だけだった。
鑑識から上がった情報が捜査官達を混乱へと落としからだ。
事務所の壁の重機で付けたと思われる跡。それが被害者を殺害した凶器の切り口と一致したと。
それは混乱するなと言う方が無理だという情報だった。
完全に状況が人間の域を逸脱したという証拠。その事実に多くの捜査官が混乱の悲鳴をあげていた。
そして更に捜査が混乱する証拠が出た。
事務所内に何故か幾つかあった一塊の砂。正直何故?だった。
事務所の壁は古いがコンクリート製。それが削り落ちた?。と、冗談はよそう。
しかしその砂から人間のDNAが出た。しかも砂の成分は一切出なかったとの事。
一聞巫山戯た話しに私は鑑識に詰め寄った。しかし・・・・。
砂の成分は間違いなく人体を構成してい物で、何らかの方法で人間が砂の様な物に変化させられたのではないか。
鑑識から返って来たのはそれだけだった。
一応その見解には無理がある部分があると指摘したいところだが、なら他に有力な見解があるのか?。残念ながら無い。
そしてもう一つ、現場から鳥の羽の様な物が見つかっている。
鳥の羽の様なとしたのは鳥の羽にしては大き過ぎたからだ。
だから当初その羽は作り物でわ?という見解が出た。
しかし鑑識から作り物ではなく”何かの生物”の物と報告が上がった。
正直何かとは何だ!。だったが、鑑識から一致するDNA情報が無く、他に言い様が無いとの事。
言うまでもなく現場は更に混乱した。そんなものばかりだからだ。
しかし全く捜査が進まない訳でもなかった。
捜査開始から数日後の事だった。
事件の生存者がいるという情報が上がった。自首して来たとの事だった。
なら何故自首したのが数日後だったのか?。
どうやら襲撃者を恐れてしばらく身を隠していたとの事。
そしてそいつは襲撃者を覚えていた。それでよく生き残れたな、だったが。
どうやら襲撃者は逃げる者には無頓着だったようで、こいつ以外にも生き残りはいるという。
しかしその証言はそう簡単に信じられるものではなかった。
そいつは鴉のコスプレをした・・・男だったと思う。しかも何故か着物を着ていて・・・・。
で、そいつは刀を持っていて、それで次々と仲間を殺していった。
正直なんだその巫山戯た話しはっ!。だったが、男の証言が事細かくなってくるとその考えは消えていた。
驚く事に男の記憶力はなかなか優秀で、その証言が何故現場があのような有り様になったかを語っていき、
その語りがことごとく現場と一致していく程に正確だった。
こうなると男の証言がどれだけ巫山戯たものと感じたとしても信じざろう得ないだろう。
尤も、だからこそヤクザ側はこの男を警察によこしたのかもしれない。
そうして不本意なところではあったがその鴉のコスプレ野郎を手配する運びとなった。
尚、あまり捜査と関係無いが、捜査の中で多くの被害者が判明している。
そして驚いた事に、その中に私の姉がいた。
母一人、娘一人。と、最近一人増えたか。
生活が苦しいのは知っている。だから援助をして、続けていた。
だからこそだが。借金の事、教えてほしかった。
相談してくれていれば全てが解決出来る程警察も万能ではないが。
何かしらの力にはなれたとは断言出来る。
だが、それらを感情的になって問い詰めたのは失敗だった。
姉から親族に警察関係者がいる事を知られていて、
ヤクザ連中からその親族への口封じを、娘を人質の様にされて脅されていたと泣きながらに言われて心が痛くなった。
普段から事件というものに関わってる者としては軽率な行動だったと反省の念が絶えないものだ。
と、話しが脱線した。
本事件の犯人と目される鴉の・・・・コスプレ野郎は止めるか。鴉の男としよう。
その鴉の男だが、証言者はヤクザも追っていると最後に証言した。まあそれは当然だろう。
しかしこれも当然だがその鴉の男を警察がヤクザに譲るというのは道理ではない。
警察による逮捕。それが当然の結末と言うものだろう。
しかし不安もある、どうにも不確定な、未知的なものがあまりにも多すぎる。
証言から相手が人間とも取れるものもあるが。
その人間のやった事はあまりにも人間域を超えたものがある。
果たして本当に警察で対処可能な案件なのか。
その不安を持つのは私だけではないはずだ。
そして男の証言の中に出て来たもの。鴉の男は自分を鞍馬天狗と名乗ったと。
鞍馬天狗は架空の、想像の存在だ。
古くは1970年代に映画作品として誕生し、2000年代後半にテレビドラマとしてリメイクもされている。
この事実もまた本事件の犯人を巫山戯た輩という認識を強くする要因となっている。
尤もどう考えてもそんな認識が通用する相手には思えないが。
最後に、本記録は公的なものではなく、私的なものとする。当然報告対象とはしない。
理由は単純だ。現状記録内容があまりにも現実離れし過ぎている為である。
それは男の証言も同様と言えるが、どちらにしても一般公開とするにはあまりにも準備が不足している。
尤も、今このような事を記者会見で発表しようものなら間違いなく我々警察はメディアに笑いものにされるだろう。
そして不気味なのが警察上層部。これだけ事態にも関わらず反応がこうも静かなのは不気味だ。
こういう状況では真っ先に狼狽えると思っていたので意外だ。
以上、記録を終了する。
そう一通りキーボードを打ち、最後の処理をするとキーボードから手を離した。
そして御坂将斗はさっきまで凝視していたパソコンのディスプレイから顔を反らし、椅子にもたれ掛かると一息付く。
「我ながら滑稽だ。」
間違いないなくの独り言。しかし本人としては当然だった。
いくら記録事の中は言え、普段自分を「俺」と称している人間が「私」と称るのは気恥ずかしさがあったからだ。
まあ人に見せないので良いだろうという考えが過ったが。
それも安易な考えでしかない。
今回将斗が記録した内容が今後メディアに向けての公式の情報にならないという保証は無い。
尤も私的な内容もあるのでそこは伏せられるだろう。
「面倒な捜査にならなければ良いが。」
それはつい口にした事。しかし頭では全く逆の考えがあった。
何故なら今回の事件はどい見ても面倒になりそうだと強く予感していたからだ。
そして皮肉にもその予感は綺麗なまでに見事な的中をする。
何よりこの時の将斗は気付いてもいなかった。
これから捜査しようとしている事件の根幹が極めて身近にある事を。
そしてその事を知った時、本人も全く想定していなかった形で鞍馬天狗と関わる事になる。
たがそれはまだまだ先の話しである・・・・・・・。
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