背徳のパープルクロッカス

高宮 摩如(たかみや まこと)

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ー最終話ー そしてクロッカスの花は散り終る

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ぱちぃっーん!。
甲高い乾いた音がそう広くもない一室に響く。
場所は病院の一室。本来は病院関係者のみが使用する部屋で、そこを音を立てた人物が無理を言って借りている。
あまり他人(ひと)に聞かれたくない会話をする為にだった。
その音は人の頬を叩いて出たもので、音を立てた人物、美山怜は頬を叩いた人物、甥っ子の美山敬悟をじっと睨んでいた。
「馬鹿な事をしたって自覚がある?。ここのところ佳保の見舞いも疎かになっていたみたいだけど。」
怜の言葉に感情は無い。しかしその表情には明確な怒りが宿っていた。
理由は不明だが、兄妹の禁断の情事が知れて今に至っている。
そして母、美山佳保の事。妹、美山茅奈との情事にかまけて確かに疎かになっていたという後悔。
どちにしても敬悟”らしく”ないもの。
ただそれでも茅奈との関係がどうして知れたかの謎は残るが、
病院(ここ)に呼び出された際の文言が妹の美山茅奈が妊娠したという事だったので、そこからか?とは考察は出来た。
「もう隠すタイミングじゃないから言うけど、茅奈(あのこ)、癌なのよ。」
「えっ?。」
それは怜からの唐突なカミングアウトだった。そして怜は話しを続ける。
自身の妹で、敬悟と茅奈の母親の佳保から突然助けを求められてから二人を引き取る事となった。
実はその頃から茅奈は体調の不良を訴えていた。それは兄の敬悟にもしていたが、
その内容は『体がずっと怠い。』『疲れやすく、疲れが取れない。』『あまり眠れない。』というもの。
しかしいずれも深刻に捉えるものではないと怜は判断し、申し訳程度の検診で済ませ、異常無しで終わらせた。
なにより二人の母の佳保の事、そして怜自身の仕事の忙しさもあって、投げ槍な形で終わらせたのだった。
「後悔してるわよ、仕事より家族を大事にすべきだ。そんな話しをよく聞くけど、
 それがまさか自分に当てはまる事になるなんて、あの時ちゃんと話しを聞いていて、
 ちゃんと対応していればって、後悔に繋がるなんて考えもしなかった。」
怜のそのその後悔の言葉は形は違えど敬悟にも通じるものがあった。
元々人間関係の構築を敬悟、茅奈の二人共苦手としていて、その為友人関係も希薄だった。
その反動なのか兄妹仲は非常に良く、思春期に入ってもそれは変わらなかった。
しかし、その関係にも変化は訪れる。
茅奈は過剰なまでのスキンシップを好んでいた。敬悟もそれを気にする事はなかった。
しかし茅奈が中学に上がるとそうもいかなくなった。
少女の体に訪れる変化、それがスキンシップを通して敬悟に伝わる。
服という布を重ねてもその感触は敬悟に伝わり、言い様の無い、正体不明の感情に変わる。
しかしそれも性的知識を得る事でその”正体”を知るに至る。
敬悟は実感する。茅奈とのスキンシップの中での自身の欲望を。
茅奈の裸を見たい、その裸に触れてみたい、いたずらをしてみたい、そして・・・・。
真面目な性格が故に敬悟はそんな自分が許せなかった。だから茅奈と距離を置こうとした。
だからこそ叔母の怜同様茅奈のSOSに気付けなかったと敬悟は考えた。
しかし実際にはそれは違うと言えた。
何故なら敬悟の茅奈と距離を置こうという行為を茅奈自身が許さなかったからだ。
敬悟の行動に気付き、よりスキンシップをするようになり、家の中でも短かめのスカートと無言の誘惑を始める。
敬悟も勿論抵抗をした。しかし基本家では二人だけというのが殆ど。
しかも家を出る理由をなかなか作れず、結果として茅奈の誘惑が勝つ事となった。
しかし、だとしても何故茅奈は実の兄と肉体関係を持つ事を望んだのかは未だ不明だった。
で、話しを戻す。それから数年後、怜の仕事も落ち着きを見せ一段落したと実感したと言う。
しかし実は茅奈の体調不良の訴えは続いていた。そして・・・・・。
「でもその内容は以前とそう変わらなかったから、大して気にしなくて良いって思っていたの。
 でももう一年位前になるわね、茅奈が突然私の前で吐血したの。
 それで慌てて病院へ連れて行ったわ。けど遅かった。もっと早くにって思った。
 診断の結果は末期の癌。しかも手遅れで、余命は約一年って言われた。」
「そんな・・・。」
正直、癌だとしても茅奈は助かると敬悟は思っていた。
癌も今となってはそう重大な病気ではないと知っていたから・・・しかし。
その妹が助からない・・・確実に。敬悟の頭の中は真っ白になっていた。
「御免なさいね、茅奈から、貴方には知らせないでほしいって言われていたから。」
だからかその怜のその言葉は敬悟に届いてなかった。
「それで、定期に経過観察をしていたのよ。それで今日は病院にだったのだけど。
 茅奈の様子がおかしいから調べてみると妊娠してて、どういう事かと問い詰めると貴方とそういう関係にあると。」
「・・・・・・・。」
そこで自分達の関係が知れた経緯を知る敬悟。でも後悔の想いの方が強かった。
「御免・・・。」
ようやく、今更というタイミングで敬悟は謝罪を口にする。
後悔したから、過ちに気付いたから、家族を、妹を本当に大切に想えるから。
「その気持ちが本当なら”これから”の時間を大切にしなさい。もうそう残されてはいないから。」
怜はそう言ってその場を去った。去り際に病院関係者に一室を借りた事の謝罪の言葉が聞こえた。
それからどの位の時間か敬悟はただ呆然としていた。
いきなり訪れた現実をどう受け止められていないからだ。
ただそれでも怜の言葉はしっかり敬悟の頭の中を巡っていた。
茅奈も余命宣告を受けている、しかもその宣告も目の前の時期だと考えるべきだろう。
しかしそれは母佳保もおそらく同じだろう。
下手をすれば近い時期に家族を二人も失う可能性があり、それは”確定”しているという事実。
「ぐっ・・・・・・。」
敬悟の中で後悔という感情が強い胸の痛みに変化していた。
でも、それでももう取り返しはつかない絶対に・・・・。
だから怜の言葉に従って行動するしかないだろう。
家族を大切にしたい。その気持ちは事実だったから・・・・・。
しかしそう決意して早々に問題が起きる。
「やだっ!、帰るのっ!。」
茅奈が家に帰りたいと騒いだのだ。病院から出ない方が良いという医師の方針を無視しての事だった。
正直その有り様はもう余命僅かとは思えない元気ぶりで、怜の言葉が嘘にも思えた。
結局医師の方が折れ、一時帰宅の許可が降りた。
しかしその直後に医師と二人だけという形で注意事項を聞いた敬悟は重い現実を思い知る。
「現状、茅奈さんは元気に見えますが、実際は極めて危険な状態です。
 いつ体調を崩すかもですし、下手をすればそのまま命を落とす可能性もあります。
 お兄さんには細心の注意を以て、経過を見守って下さい、そして何かあれば、すぐ連絡を。」
医師のその言葉に敬悟は背筋が凍るような感覚を覚えた。
まだ実感出来ていない事実を伝えられたからだ。
「はい・・・・。」
だからか、その返事には無気力に思えるものがあった。
しかしそれはそれで問題があった。学校だ。
現在学校は長期の休みに入っている訳ではない、普通に同行日だ。
困った敬悟は怜に連絡した。
「・・・分かった。私から連絡するからしばらく学校を休みなさい。
 それから、佳保の事もしっかりね。貴方の母親なんだからね。」
釘を刺される言葉と共に怜に助けらる形となった。
「分かりました。」
けど自分の落ち度は自覚している。だから敬悟は素直に叔母の言葉に応じていた。
そして茅奈が一時帰宅の日。
「わ~~~~いっ!。」
周囲の気苦労も関せず一人はしゃぐ少女。流石の敬悟も呆れていた。
茅奈に同行していた病院関係者は早々に帰り、敬悟は茅奈の少ない荷物を片付ける。
しかしやはり病魔は確かに少女を蝕んでいるのか。
家に着いて茅奈はすぐ「疲れた。」と自室で眠り、その日は起きてこなかった。
敬悟もそんな茅奈は初めてで、心配になり様子を何度か見ていたが、ただ静かに眠る姿を見るだけだった。
翌日、朝もそこそこの時間に自室で一人でいると怜から連絡が来ていた。
「病院からの通達。茅奈の我儘を聞けるのは一週間辺りが限度だそうよ。
 それを過ぎれば、強制してでも病院に戻すそうよ。」
「分かりました。有り難う叔母さん。」
そのやり取りで電話は切れていた。
茅奈は無理をしてでも帰って来ている。その事実を再確認させられるものだった。
そしてだからこそ普通の日常には戻れないという思いが敬悟にはあった。
しかし茅奈は違った。いつもの様に明くる振る舞い、過剰なスキンシップを求める。
無理に明るく振る舞っているかも?と敬悟は思ったが、正直判別は出来なかった。
しかもその中には明らかに性的な誘いもあった。
そしてそれは今日もだった。
「茅奈・・・何で。」
茅奈の行為にいけない事だと抵抗を示す敬悟、しかし・・・・。
「今更だなぁ~お兄ちゃん。もう私達、いけない事、してるんだよ。」
甘い表情でそう訴える茅奈。それが事実なだけに質の悪いものだった。
「ああ・・だからこそ終わりにしないと。」
妹の甘い誘惑に乗せられそうになっていると敬悟は気付き、強く抵抗をする。
「そんな事しなくても終わるよ、だって私死ぬんだもん。
 だから今すぐに終わりしなくてもいいじゃないっ!。私の事、愛してよ。」
「えっ!。」
茅奈の突然の告白に心底驚いた敬悟。「愛して。」そんな事あったのかと・・・。
「愛してって、ただ誘惑されて、それに乗ってしまって、それだけのはずだろう。」
なんとも情けない言い訳をする敬悟。しかしそれが事実だった。
「うん、そうだね。私がそう仕向けたからね。」
そう言いながら自らの服を脱ぐ茅奈。ワンピースと下着だけだった為にあっさりと全裸になっていた。
やはり情けないと言うべきだろう、茅奈の裸を見せられて敬悟の欲望は確かにその肉体に向けられていた。
「嬉しい、お兄ちゃんも私が欲しいんだ。」
敬悟のものが膨らみを見せているのを知り喜ぶ茅奈。
「茅奈、何が望みなんだ?。」
それでも必死に抵抗を見せる敬悟。だが限界も感じていた。
目の前の妹を犯したい、もう何度も経験したからこそ沸き上がる欲望だった。
「ずっとお兄ちゃんが好きだった。だから触れたいって、触れられたいって!。
 それで、お兄ちゃんとセックスして、お兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいって!。
 やっと望んだ通りになって、欲しいものも手に入ったのに!。
 どうして私は死ななきゃいけないのっ!。結局赤ちゃんも駄目になって。
 だからお兄ちゃんっ!、私を慰めて、その為にセックスしてっ!。」
茅奈のその要求は明らかに滅茶苦茶で、支離滅裂で、そして凶気めいていた。
そして一度壊れた理性は修復されない。それを証明するように敬悟も服を脱ぎ始めた。
幸い自室は常に人目が入らないようにしている。
だからこれからしようとしている背徳行為も気にせず実行出来るだろう。
そして敬悟は茅奈により近付く。
「望み通り、思う存分愛してやるよ。」
少し投げ槍な敬悟のその言葉は露になった敬悟のものが証明していた。
そしてそれを確認出来た茅奈は喜んで敬悟に抱き付いた。
「うんっ、いっぱい愛してっ!。」
それを合図に二人は敬悟のベッドに移動する。
「じゃあお兄ちゃんが上ね。」
茅奈は明るくそう言い、敬悟は少し不満顔になる。
基本的に茅奈が上になる騎乗位を好む敬悟。
その方が楽なのもあったが茅奈の裸体を視姦しながらの行為も魅力的だったからだ。
しかし今は茅奈に主導権がある。それは敬悟も理解していた。
「まずは気持ち良くして。」
そう言って躊躇う事なく自身の無毛の秘部を見せつる少女。
そして少年はそれに応える為に秘部と口付けを交わす。
「あっ、ああぁっーーっ!。」
それからすぐに甘美な声を上げる茅奈。敬悟が舌を使い、少女の秘部を喜ばせている証明だった。
しかしこれまでの慣れからか、早々と行為を止める敬悟。それに不満顔を見せる茅奈。
「何で止めるの?。」
「ん、何だ?、これが欲しいんじゃないのか?。」
そう言いながら敬悟は自分の体を上げて自身のものを茅奈に見せ付ける。
「うん、欲しい。」
少女の方もまた慣れというものなのか、あっさりと交わりを望む事を言葉にしていた。
そうして敬悟は自分のものを茅奈の秘部に当てていく。
もう回数も把握出来ない程に経験した行為。
それだけに呆気なく性器の交わりは成功していた。
「やっぱり気持ち良いよ、茅奈。」
「うん、私も。」
まだ挿入だけなのに気の早い感想を口にする二人。
しかし敬悟がピストン運動を始めるとそれも少女の甘美な声に埋まってしまう。
一時休止していたがほんの数日前まで二人はセックスに明け暮れていた。
気が付けば茅奈は兄の体に抱き付き、兄の行為を強く感じているようだった。
そして絶頂。まだ若いが故に長く快感をたのしむという感覚がない。それよりも・・・。
「まだまだ、もっと・・・。」
そもそも茅奈自身が複数回の中出しセックスを好んだ為か一回のセックスが短くなりがちだった。
「今度は茅奈が上になってくれよ。」
「ええぇ~~~。お兄ちゃんが動いてくるなら良いよ。」
やはり欲望を抑えられないのか、自分好みの要望を口にする敬悟だったが、
しかし茅奈からも要望が返ってくる。今の彼女の状態を考えれば当然だが。
「茅奈が動いてくれないのか?。」
「体がきついし、つらいの、お兄ちゃんお願い。」
そう言われると弱い。しかも相手が病人だから尚の更だ。
敬悟は仕方ないと思いながら体位を変え茅奈を上にする。
「もういつもだけど、やっぱり恥ずかしいな。」
そう言って自分の体を抱き、上だけを隠す茅奈。
「今更だな。」
そんな妹に呆れる敬悟。このやり取りの中で秘部の交わりは完了していた。
「あっ・・・・。」
そのシーンを目に出来てなく、不満を口にする兄。そして茅奈の方は勝利の笑顔。茅奈が勝手に挿入を終わらせていたのだ。
「お前なぁ。」
「お兄ちゃんのエッチ!。」
本当に今更な会話が交わされる。
そして約束通り敬悟が腰を動かし始める。少し待ったが茅奈に動く気がないと確認出来たからだ。
「んっ・・はぁっ・・・また・・妊娠出来るかな。」
兄と交わりながらあり得ない希望を口にする少女。
本来なら抗癌剤が避妊薬となり、妊娠などするはずもなかった。
その状況を悪用し兄に「生理は来ていない。」と嘘をつき、そしてどうしてか妊娠した。
それは彼女の執念なのか。理解出来ない何かが彼女の望みを叶えた。そうとしか言えなかった。
しかしその”全て”は途絶えた。抗癌剤と病院での治療の過程でお腹の子はもう流れてしまい。
また妊娠出来ない体になってしまっているはずだ。
抗癌剤の作用で体の毛という毛は抜け、だからこそ彼女の秘部は中学生なのに無毛で、実は頭もウィッグである。
それでも少女の裸体は魅力的で、それを視姦しながらのセックスが敬悟は大好きだった。
そしてまたしても絶頂。一度目よりは長いセックスだったが、それでも時間的には短いものだった。
「はぁ、はぁ・・・・。」
二人の息使いが荒くなっている。
敬悟は連続での絶頂に疲れと痛みを覚え、一息入れる形をとっていた。
すると我慢出来なくなったのか、茅奈から動きだす。
「お前なぁ~~。」
「だってっ、だってぇっ!。」
妹の行動に呆れる敬悟だったが、当の茅奈の方は決死と言える表情で腰を動かしている。
それもまた執念と言えた。しかし長くは続かない。今の茅奈にそこまでの体力は無い。
自分の上で力尽きた妹を見て、その執念を感じて、敬悟は”それに”促されるように今度は自分から腰を動かす。
「はぁ、はぁ、有り難う・・・お兄ちゃん。」
力無く、息も切れ切れに言う茅奈。彼女の諦めないという執念がその言葉にはあった。
そんな妹に敬悟は怖さを覚えていた。だがそれ以上の高揚感があった。
美しくも幼い少女の肢体をその目に焼き付けられている事に。
そしてまだ汚されてはいけないはずの秘部を欲望のままに犯せている事実。
もう限界にも見えながらも執念で血の繋がった兄妹でのセックスという背徳行為を続ける茅奈。
そしてそれにもう止める事の出来ない欲望で応える敬悟。
時折休憩を挟みながらもその執念の情事は夕方まで続いた。
だから敬悟は勘違いした。今感じているこの日常が、この関係がまだしばらくは続くのではと・・・。
しかし現実は容赦なかった。
翌日、なかなか茅奈が起きてこず、敬悟は様子をみる為に茅奈の部屋に。
「なっ・・・!。」
一瞬頭が真っ白になった。
ベッドの上で血塗れになっている妹。
敬悟は確認もせずに急いで自室に戻り自身の携帯で救急車を呼んだ。
そこからの記憶は断片的だった。
病院に着くと何故か叔母がいた。連絡はしていないし、落ち着いたと言っても忙しいはずの人だ。
そして病院の待合室に叔母と二人。病院は休みの日なので人気は殆ど無い。
「連絡がつかなかったけど、茅奈が大変だったみたいね。」
「はい、けど・・・。」
敬悟が何故ここに叔母がいるのか聞こうとしていたがその前に・・・・。
「私にも緊急の連絡が入ったの、佳保の意識が戻らなくなったって。
 ここ最近、大分弱ってたから、覚悟はしてたけど、敬悟もそのつもりで。」
それは敬悟も知っていた。
叔母の怜から母親への見舞いが最近怠慢になっていると指摘されてから”久し振り”に母の顔を見に行った。
しかしその母は眠ってばかりという状態だった。
そして看護師からそれは母佳保が段々と弱っている証で、最後の時が近付いている証拠だと聞かされる。
そこで敬悟は本当に後悔した。余りにも今更に。
茅奈の誘惑に負け、理性を欲望に変え、そして大切なはずの”母親”を見失った。
それが後になってそれがどれだけ馬鹿な事だと気付いても遅い。まさに後の祭り・・・。
どうしようもない後悔だけが敬悟の中で残ろうとしている。
そして事態は”それ”を後押しする様に動く、残酷な事実として。
それからすぐ後の事。敬悟は家族の死に目に会えた。母と妹の・・・。
なんの偶然か、二人はほぼ同時と言っていいタイミングで息を引き取った。
医師の”臨終”の宣告を二回・・・ほぼ同時に聞く事になった。
ただ呆然となる敬悟。それは叔母の怜も同じだった。
無機質な機械に繋がれ、医師達の声と機械音だけの中で二人は最後を迎えていた。
目を覚ます事は無く、ただ無言のままに・・・。
全てが一瞬の出来事に感じた、現実感を感じられないが故に・・・。

葬儀当日。敬悟は強く降る雨の中を傘もさす事もなくただ呆然と立っていた。
そうすれば未だ消えない後悔と罪悪感が洗い流れるかもしれないと思ったから・・・。
会場には当然人の姿がある。その多くは敬悟には見覚えはない。
母佳保の関係者?とも思ったがそれにしては人数が多いと感じる。
じゃあ妹の茅奈の方か?となるとよりありえない。それは敬悟もよく知っている事だ。
普通に考えれば叔母の怜の関係者と考えるところだろう。
怜は会社経営者だ、しかも敏腕の。その繋がりでは?とは思える。
彼女の近親者が亡くなったという事で、そう考えれば合点がいくだろう。
しかし今の敬悟にそこまでの思考は不可能と言えた。
もっと正確に言えば自分の事で精一杯と言ったところだった。
不意に雨が止んだ?。いや違う、誰か隣に来た、そう敬悟は思った。
「それで気が済むの?。あんまり馬鹿な事をしないで。」
雨が止んだと思ったのは怜が傘をさして隣に立ったからだ。
そしてその怜の言葉に敬悟は何も応えなかった。
「間違っても”死ぬ”なんて考えないで敬悟。貴方は生きなきゃいけない。
 佳保の為にも、茅奈の為にも。二人の後を追うなんて佳保も茅奈も、私も許さない。」
やはり敬悟は応えない、たが響くものはあった。
叔母の言葉に思い当たるものがあったから。
体が弱い事で弱音を一度も吐かず、家族を温かく支え続けた母。
一見するとただ甘え続け、自分勝手を続けただけにも感じたが、
自分なりの方法で、必死になって家族を、兄妹を愛した妹。
「うん・・・分かったよ・・・。」
叔母の言葉が、そして家族の想いを理解したから、伝わっから出た敬悟の言葉。
しかしその声は余りにも弱く、降り頻る雨に呆気なく掻き消される。
だがその決意は確かなもので、現敬悟の心情から”絶望”が消えた確かな証だった。
               ー 完 ー
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