80 / 83
桜餅と花の精
(十八)
しおりを挟む
両親と千代に挨拶を済ませて家を出ると、穂乃花たちはそのまま電車に乗って、今度は穂乃花の地元に訪れた。目指したのは、穂乃花の両親の墓。ここに来るのは、久しぶりだ。花を活けて、線香をたく。雪斗と並んで手を合わせた。
――お母さん、ごめんね。
長い間病気と闘っていたと叔母に聞いたけれど、実家に帰らず連絡も取らなかった当時の穂乃花は、なにも知らなかった。それでも、穂乃花が独り立ちするまで、母は生きてくれていた。もしかしたら穂乃花が大人になるまでは、と命を必死でつないでいたのかもしれない。自分勝手な解釈ではあるけれど。そうだといいなと思った。
それに、離れて暮らすようになってからも、母は穂乃花を心配していたのだと叔母が言っていた。
穂乃花は鞄から写真を取り出して、胸に抱きしめた。叔母からもらった、一枚の家族写真。
――ありがとう、お母さん。
ずいぶん長い間、目を閉じていたと思う。さて、と目を開けてとなりを見れば、雪斗はまだ手を合わせていた。
「雪斗さん、母さんたちになにを話してたんですか」
やっと顔を上げた雪斗に聞く。
「穂乃花さんと結婚させていただきますって報告と、自己紹介。ふたりとも俺のこと知らないから不安だろうし。俺はこういう人間で、穂乃花さんのことどう思っていて……って全部話そうとすると長くなるでしょう」
「うわー、私が聞いたら恥ずかしくなるやつですね」
「聞きたいなら、いつでも聞かせてあげるよ」
「いいです、遠慮します」
ぶんぶん首を振ると、雪斗は笑って穂乃花の頭に手を置く。
「そろそろ、南風岡に帰ろうか。龍神さまも家で待ってるし」
「そうですね」
立ち上がって、墓に背を向ける。歩き始めてみたけれど、途中で足が止まった。振り返る。両親との想い出が、ひとときに頭によみがえった。
今度は、写真も想い出も大事にする。
叔母とも、もう一度会いたい。写真のお礼を言って、両親の話をしよう。
「――行ってきます。お母さん、お父さん」
雪斗に手を伸ばす。彼の指と絡めて、微笑んだ。
「よし。帰りましょうか」
雪斗とふたり並んで、今度こそ歩き出した。
――お母さん、ごめんね。
長い間病気と闘っていたと叔母に聞いたけれど、実家に帰らず連絡も取らなかった当時の穂乃花は、なにも知らなかった。それでも、穂乃花が独り立ちするまで、母は生きてくれていた。もしかしたら穂乃花が大人になるまでは、と命を必死でつないでいたのかもしれない。自分勝手な解釈ではあるけれど。そうだといいなと思った。
それに、離れて暮らすようになってからも、母は穂乃花を心配していたのだと叔母が言っていた。
穂乃花は鞄から写真を取り出して、胸に抱きしめた。叔母からもらった、一枚の家族写真。
――ありがとう、お母さん。
ずいぶん長い間、目を閉じていたと思う。さて、と目を開けてとなりを見れば、雪斗はまだ手を合わせていた。
「雪斗さん、母さんたちになにを話してたんですか」
やっと顔を上げた雪斗に聞く。
「穂乃花さんと結婚させていただきますって報告と、自己紹介。ふたりとも俺のこと知らないから不安だろうし。俺はこういう人間で、穂乃花さんのことどう思っていて……って全部話そうとすると長くなるでしょう」
「うわー、私が聞いたら恥ずかしくなるやつですね」
「聞きたいなら、いつでも聞かせてあげるよ」
「いいです、遠慮します」
ぶんぶん首を振ると、雪斗は笑って穂乃花の頭に手を置く。
「そろそろ、南風岡に帰ろうか。龍神さまも家で待ってるし」
「そうですね」
立ち上がって、墓に背を向ける。歩き始めてみたけれど、途中で足が止まった。振り返る。両親との想い出が、ひとときに頭によみがえった。
今度は、写真も想い出も大事にする。
叔母とも、もう一度会いたい。写真のお礼を言って、両親の話をしよう。
「――行ってきます。お母さん、お父さん」
雪斗に手を伸ばす。彼の指と絡めて、微笑んだ。
「よし。帰りましょうか」
雪斗とふたり並んで、今度こそ歩き出した。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
たおやめ荘のダメ男
しゃけ式
キャラ文芸
春から女子高生の音坂実瑠は、両親の転勤を機にたおやめ荘へ下宿することになる。そこで出会ったのはとんでもない美形の男子大学生だった。
だけど彼は朝は起きられない講義は飛ぶパジャマの浴衣に羽織を着ただけで大学に行くなど、無類のダメ男でかつかなりの甘え上手だった。
普通ならば距離を置かなければならない相手だが、しかし。
(やばっ……好みドンピシャ……!)
実瑠は極度のダメ男好きであり、一瞬で恋に落ちてしまった。
ダメ男製造機の実瑠が彼と相性が悪いわけもなく、一緒に暮らすにつれて二人は徐々に関係が深まっていく。
これはダメ男好きの実瑠が、大家さんであるお姉さん(実は天然)や高校の先輩の完璧男子(実は腹黒関西人)、美人のモデル(実は男)といった個性豊かな同居人に振り回されながら、それでもイケメンダメ男に好かれようと頑張る物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる