あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい

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桜餅と花の精

(六)

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 これはガラの悪い隣人の罠なのだろう。耳を貸せば、神隠しに遭うのだと思う。まあ、相手は神なんかじゃなさそうだけど。ただの迷惑なチンピラだ。そんなチンピラに、一瞬いいように惑わされた自分が憎い。

「雪斗さんはぜったい、私をひとりになんてしない。あなたの誘いには乗らない」

 ちりりん。
 鈴の音が鳴る。穂乃花を導く、鈴の音。

「彼だって、本当はあなたのこと気味が悪いと思って――」
「ぜったい、ありえない! 勝手なこと言わないで!」

 穂乃花は精一杯叫んだ。

「雪斗さんのことは、あんたより私のほうが分かってる。ほわわんってしてて、体力ないし、なんなら私のほうが強いんじゃないかと思うし、隣人のことは視えないけど、でも私と一緒にいてくれる。なにがあっても、私を待っててくれる」
「そんなのうそ」
「なわけないでしょ! 馬鹿にしないで!」

 何年雪斗といると思っているんだ。
 ああ、もう、腹が立つ。イライラする。ここ最近で一番イライラしている。穂乃花は腹に力を入れた。

「雪斗さんは相当、私のことが好き……なはず! だいたい、私がいろいろ視えるって知っても一緒にいてくれて、心配して引っ越しまでしてくれて、視えないくせにずっととなりにいてくれて、そんな雪斗さんが今さら私を怖がるわけないでしょ!」

 だから。
 だからもう、私はひとりぼっちになんてならない。

「雪斗さんがいてくれれば、私は――!」

 私は。

「ひとりになんて、させないよ」

 ふいに、穏やかな声が重なった。
 すぐそばで鈴の音が鳴った。後ろから白い腕が伸びて、ふわりと穂乃花を包み込む。

「やっと見つけた。穂乃花さん」

 へ、と穂乃花は目を丸める。
 雪斗だった。
 ほんのすこし上気した頬、息もわずかに上がっているけれど、たしかに雪斗だ。

「雪斗さん……?」

 どうしてここに。なんでいるんだ。

「探してたんだ。穂乃花さんに呼ばれた気がしたから」

 そう言ったとたんだった。一瞬で、穂乃花にまとわりついていた闇が晴れた。白い光がさして、思わずその場に崩れ落ちる。足元でかさりと落ち葉の音がした。

 穂乃花は雪斗に支えられて、なぜだか山にいた。すぐ近くに電話ボックスサイズの龍神の社がある。ということは、家の近くだ。どうして。駅の近くで影につかまったのに。

「穂乃花さん、大丈夫?」
「あ、はい。……いや待って、なんで雪斗さんがいるの。今のなんですか。まさか、本当は隣人のことも視えてるんじゃ。というかお祓いの力とかあったんですか」
「いやいや。まったく、なにも視えてないよ」

 雪斗は、ははっと軽く笑ってみせる。

「でも穂乃花さんが俺を呼ぶ声は、ちゃんと聞こえた。そしたら龍神さまが来て、穂乃花さんを探すの手伝ってくれたんだ。もう走り回ったから、疲れたよ」
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