23 / 83
あったかシチューと龍神さま
(一)
しおりを挟む
休日の居間、穂乃花が客人と話していると、情けない声で穂乃花を呼ぶ声があった。襖を開けて雪斗が姿を見せる。眼鏡をかけて、髪はヘアピンで止めた仕事モードだ。
「穂乃花さんー、助けて……、あ、朱里さんと優ちゃん。来てたんですね」
「Hello! お邪魔してまーす!」
和菓子屋のハーフ美女、朱里が今日もきらきらと眩しい笑顔を見せる。そのとなりでは娘の優がちょこんと座っている。
「ふたりともさっき来たんですよ。雪斗さん、気づいてなかったんですか?」
和菓子屋親子は最近よく遊びに来る。山に散歩をしつつ、この家でお茶を飲んでいくのだ。千代がいた頃からそうだったらしい。おかしな隣人が視える優のことは気がかりだったが、隣人の話が出たのは最初の一度きりだった。というのも穂乃花が「人が来るときは出てこないで」と隣人たちに念を押したからだろう。
「で、雪斗さん、どうかしました?」
先ほどの情けない声からして、大方の予想はついているけれど一応聞いてみた。顔を曇らせた雪斗からは案の定の言葉が。
「うん、仕事がはかどらなくて、穂乃花さんに助けてほしいなあって思ったんだけど……」
声をしぼませ、重い息をつく。
「なんか大変そうですねー。雪斗さんって、なんの仕事してるんですか?」
朱里は興味がわいたようで、ぐいっと身を乗り出した。明るいブラウンの瞳に好奇心の光が輝いている。ハーフって素敵だ。日本人の地味な黒い瞳とは違う、きれいな瞳。いいなあ。
「小説家だよ」
穂乃花は答えて、雪斗お手製のクッキーをかじった。チョコチップがこれでもかと入っていて、ちょっと甘すぎた。同じくクッキーをかじる優と目があう。
「優ちゃん、おいしい?」
「うん」
「よかった。いっぱい食べてね」
まあ作ったのは私じゃないけど。そう思っている横で、
「……Really?」
朱里はぽかんとしたあと、ぱっと笑顔になって娘の肩をぽんぽん叩き始めた。
「聞いた、優! 小説家だって! 小説家だよ!」
「……う、ん? すごいの……?」
優はクッキーをもぐもぐしながら、よく分かっていない顔だ。叩かれるのが、ちょっと迷惑そう。それでも朱里は「すごいよー!」とはしゃいでいる。そんな彼女の明るさとは正反対に、雪斗の顔に影が落ちていくのを穂乃花は見た。
「いやあ、売れない小説家だからすごくはないですよ。今も執筆行き詰っていて、穂乃花さんと散歩でもして気分転換しようかなあと思ったところなので。もう、本当書けない、無理です、ごめんなさい……」
「誰に謝ってるんですか。出ましたね、執筆いやいや期」
「穂乃花さんー、助けて……、あ、朱里さんと優ちゃん。来てたんですね」
「Hello! お邪魔してまーす!」
和菓子屋のハーフ美女、朱里が今日もきらきらと眩しい笑顔を見せる。そのとなりでは娘の優がちょこんと座っている。
「ふたりともさっき来たんですよ。雪斗さん、気づいてなかったんですか?」
和菓子屋親子は最近よく遊びに来る。山に散歩をしつつ、この家でお茶を飲んでいくのだ。千代がいた頃からそうだったらしい。おかしな隣人が視える優のことは気がかりだったが、隣人の話が出たのは最初の一度きりだった。というのも穂乃花が「人が来るときは出てこないで」と隣人たちに念を押したからだろう。
「で、雪斗さん、どうかしました?」
先ほどの情けない声からして、大方の予想はついているけれど一応聞いてみた。顔を曇らせた雪斗からは案の定の言葉が。
「うん、仕事がはかどらなくて、穂乃花さんに助けてほしいなあって思ったんだけど……」
声をしぼませ、重い息をつく。
「なんか大変そうですねー。雪斗さんって、なんの仕事してるんですか?」
朱里は興味がわいたようで、ぐいっと身を乗り出した。明るいブラウンの瞳に好奇心の光が輝いている。ハーフって素敵だ。日本人の地味な黒い瞳とは違う、きれいな瞳。いいなあ。
「小説家だよ」
穂乃花は答えて、雪斗お手製のクッキーをかじった。チョコチップがこれでもかと入っていて、ちょっと甘すぎた。同じくクッキーをかじる優と目があう。
「優ちゃん、おいしい?」
「うん」
「よかった。いっぱい食べてね」
まあ作ったのは私じゃないけど。そう思っている横で、
「……Really?」
朱里はぽかんとしたあと、ぱっと笑顔になって娘の肩をぽんぽん叩き始めた。
「聞いた、優! 小説家だって! 小説家だよ!」
「……う、ん? すごいの……?」
優はクッキーをもぐもぐしながら、よく分かっていない顔だ。叩かれるのが、ちょっと迷惑そう。それでも朱里は「すごいよー!」とはしゃいでいる。そんな彼女の明るさとは正反対に、雪斗の顔に影が落ちていくのを穂乃花は見た。
「いやあ、売れない小説家だからすごくはないですよ。今も執筆行き詰っていて、穂乃花さんと散歩でもして気分転換しようかなあと思ったところなので。もう、本当書けない、無理です、ごめんなさい……」
「誰に謝ってるんですか。出ましたね、執筆いやいや期」
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
裏吉原あやかし語り
石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」
吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。
そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。
「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」
自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。
*カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる