あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい

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あったかシチューと龍神さま

(一)

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 休日の居間、穂乃花が客人と話していると、情けない声で穂乃花を呼ぶ声があった。襖を開けて雪斗が姿を見せる。眼鏡をかけて、髪はヘアピンで止めた仕事モードだ。

「穂乃花さんー、助けて……、あ、朱里さんと優ちゃん。来てたんですね」
「Hello! お邪魔してまーす!」

 和菓子屋のハーフ美女、朱里が今日もきらきらと眩しい笑顔を見せる。そのとなりでは娘の優がちょこんと座っている。

「ふたりともさっき来たんですよ。雪斗さん、気づいてなかったんですか?」

 和菓子屋親子は最近よく遊びに来る。山に散歩をしつつ、この家でお茶を飲んでいくのだ。千代がいた頃からそうだったらしい。おかしな隣人が視える優のことは気がかりだったが、隣人の話が出たのは最初の一度きりだった。というのも穂乃花が「人が来るときは出てこないで」と隣人たちに念を押したからだろう。

「で、雪斗さん、どうかしました?」

 先ほどの情けない声からして、大方の予想はついているけれど一応聞いてみた。顔を曇らせた雪斗からは案の定の言葉が。

「うん、仕事がはかどらなくて、穂乃花さんに助けてほしいなあって思ったんだけど……」

 声をしぼませ、重い息をつく。

「なんか大変そうですねー。雪斗さんって、なんの仕事してるんですか?」

 朱里は興味がわいたようで、ぐいっと身を乗り出した。明るいブラウンの瞳に好奇心の光が輝いている。ハーフって素敵だ。日本人の地味な黒い瞳とは違う、きれいな瞳。いいなあ。

「小説家だよ」

 穂乃花は答えて、雪斗お手製のクッキーをかじった。チョコチップがこれでもかと入っていて、ちょっと甘すぎた。同じくクッキーをかじる優と目があう。

「優ちゃん、おいしい?」
「うん」
「よかった。いっぱい食べてね」

 まあ作ったのは私じゃないけど。そう思っている横で、

「……Really?」

朱里はぽかんとしたあと、ぱっと笑顔になって娘の肩をぽんぽん叩き始めた。

「聞いた、優! 小説家だって! 小説家だよ!」
「……う、ん? すごいの……?」

 優はクッキーをもぐもぐしながら、よく分かっていない顔だ。叩かれるのが、ちょっと迷惑そう。それでも朱里は「すごいよー!」とはしゃいでいる。そんな彼女の明るさとは正反対に、雪斗の顔に影が落ちていくのを穂乃花は見た。

「いやあ、売れない小説家だからすごくはないですよ。今も執筆行き詰っていて、穂乃花さんと散歩でもして気分転換しようかなあと思ったところなので。もう、本当書けない、無理です、ごめんなさい……」
「誰に謝ってるんですか。出ましたね、執筆いやいや期」
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