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第六章 ヨミは今日も生きています
(一)
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人生最後の日だとしたら、なにを食べたいだろう、とヨミは思う。
もしその日、地球が滅ぶなら、なんて小説ではありふれた語り出しだ。でも実際、なにを食べたいだろう。
うーん、そうだなあ。ご飯とみそ汁、それからなにかもう一品。それでいいかな。もう一品は、その日の気分で。とりあえず、ご飯とみそ汁はマストだ。
「おはよう、お母さん」
居間にはすでに朝ご飯が並んでいた。
「あ、今日地球は滅びるのかもしれない」
「なに言ってんの。さっさと食べな」
冷めた目で見られて、ヨミはそそくさとご飯の席に座った。炊き立ての白いお米、切り出し大根が浮かぶ赤みそのみそ汁、甘めの玉子焼き。豪華ではない、いつもの朝ご飯。でもそれがいい。このあと地球が滅びたって、文句は言えない。
「みそ汁はさあ、やっぱ赤だよね」
よその県の方は「は? 濃いな、なにこれ」と思うのだそうだが、これでないとヨミはダメだ。お上品な白みそは食べた気がしない。いや、美味しいんだけど。でもやっぱり、赤だろう。
「ごちそうさまでした。いってきます」
鞄を持って、いつもの時間、いつもの職場へ。
突き抜ける夏空だった。ひとつ息をついて、歩き出す。バスの停留所に向かう道すがら、妹夫婦の庭をのぞいた。黄色い花が咲いている。愁の姿はなかった。
妹は、最期になにを食べたんだろう。
そういう話を、愁とはしたことがなかった。妹が最期の日に、どう過ごしていたのか。お互い、触れないようにしていた。でももう、いいだろうか。愁と語り合うことが、今ならできるかもしれない。
ナミも美味しいものを食べていたら、いいな。
停留所で待っていると、すぐにバスが来た。ヨミは座席から田舎の景色を眺める。相変わらず、山と田んぼばかり。代わり映えしない。でもまあ、きれいだとは思う。朝日が山を照らして、緑がきらきらと輝いている。けたたましいバスのエンジン音しか聞こえないけど、ふとすると蝉の大合唱だって聞こえてきそうだ。
もしその日、地球が滅ぶなら、なんて小説ではありふれた語り出しだ。でも実際、なにを食べたいだろう。
うーん、そうだなあ。ご飯とみそ汁、それからなにかもう一品。それでいいかな。もう一品は、その日の気分で。とりあえず、ご飯とみそ汁はマストだ。
「おはよう、お母さん」
居間にはすでに朝ご飯が並んでいた。
「あ、今日地球は滅びるのかもしれない」
「なに言ってんの。さっさと食べな」
冷めた目で見られて、ヨミはそそくさとご飯の席に座った。炊き立ての白いお米、切り出し大根が浮かぶ赤みそのみそ汁、甘めの玉子焼き。豪華ではない、いつもの朝ご飯。でもそれがいい。このあと地球が滅びたって、文句は言えない。
「みそ汁はさあ、やっぱ赤だよね」
よその県の方は「は? 濃いな、なにこれ」と思うのだそうだが、これでないとヨミはダメだ。お上品な白みそは食べた気がしない。いや、美味しいんだけど。でもやっぱり、赤だろう。
「ごちそうさまでした。いってきます」
鞄を持って、いつもの時間、いつもの職場へ。
突き抜ける夏空だった。ひとつ息をついて、歩き出す。バスの停留所に向かう道すがら、妹夫婦の庭をのぞいた。黄色い花が咲いている。愁の姿はなかった。
妹は、最期になにを食べたんだろう。
そういう話を、愁とはしたことがなかった。妹が最期の日に、どう過ごしていたのか。お互い、触れないようにしていた。でももう、いいだろうか。愁と語り合うことが、今ならできるかもしれない。
ナミも美味しいものを食べていたら、いいな。
停留所で待っていると、すぐにバスが来た。ヨミは座席から田舎の景色を眺める。相変わらず、山と田んぼばかり。代わり映えしない。でもまあ、きれいだとは思う。朝日が山を照らして、緑がきらきらと輝いている。けたたましいバスのエンジン音しか聞こえないけど、ふとすると蝉の大合唱だって聞こえてきそうだ。
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