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第五章 ヨミ、大喧嘩?する
(五)
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「水樹さん、水鉄砲って、どうやって勝敗決めるんですか?」
「知らない」
膝のあたりを流れる川に水鉄砲を浸して、水を装填する。水樹も同じように準備した。この中腰、腰にくる。いたた。
子どもたちは水鉄砲勝負と言うが、特別なルールはないようだった。彼らにとっては、楽しければそれでいいのだろう。ヨミと水樹の場合はそうもいかないけれど。
装填完了。
「えっと、じゃあとりあえず、先に当てた方が勝ちということで、どうでし――つめたっ!」
腕に水の弾が当たった。水樹が水鉄砲を構えていた。
「はい、あたしの勝ち」
「えっ、待って、今のはずるいですよ。ノーカウントです!」
「うるさい」
ふたたび水樹が引き金を引こうとする。
ああ、もう! 人の話を聞かないんだから!
ヨミはすばやく構えて、水樹より先に、そして正確に、彼女の右手を撃ち抜いた。自分で言うのもなんだが、素晴らしい早業だった。撃たれた水樹は、なにが起きたのかわからないようで呆然としている。珍しい顔だ。ちょっとだけ気分がいい。
「――言っておきますが、わたし」
銃口を水樹の眉間に向けて、
「射的、得意なので」
夏祭りの射的が好きだった。好きというか、幼いころに妹が「あれ取って!」と頼んでくるものを必死で撃ち抜こうとしたところ、異様に腕が上がった。うまくなってくると楽しくなるもので、物心ついて妹が射的に興味をなくしてからも、毎年ヨミは出店に向かった。銃の扱いであれば、自信がある。
「遠慮しませんから」
「上等」
それが開戦の合図になった。
ふたりして、水鉄砲を撃ち合う。服が濡れるのも気にしない。勝ち負けのつけ方はよくわからない。とりあえず相手に水の弾を当てる。それだけを考える。
水が跳ねて、飛んで、ぶつかる。
ちらちらと光を反射する。
そのうち、子どもたちも「ヨミさんに助太刀するー!」「じゃあわたしは水樹さんの味方!」と加わって大乱闘となった。最初はヨミ陣営、水樹陣営だったのが、もうなんだかぐちゃぐちゃになって、自分以外全員敵、と思いきやどこかで共同戦線が張られ、またどこかでは誰かが誰かのスパイになった。
水飛沫。笑い声。日の光。
暑い、熱い、冷たい、涼しい。
混乱を極めた戦線。ただひとつ、ヨミと水樹が敵同士なのは一貫していた。
「お節介おばさんのくせに!」
「水樹さんの方が年上でしょ、たぶん! 年齢知らないけど! 謎多すぎるんですよ!」
「あんたに教える義理はない!」
水樹の弾が頬をかすめて、驚いた拍子に足元が滑る。態勢が崩れたヨミに向けて水樹は容赦なく引き金を引く。肩に弾丸を浴びつつ、ヨミはすぐさま体勢を立て直した。肩を負傷したくらいで死にはしない、なんて、あれ、けっこうわたし、ノリノリでは。
「ヨミさん! 使って!」
なっちゃんが銃を投げて寄越してくれる。この戦線の中で最も威力の高い代物だった。装填できる水の量が桁違いだ。これは百均で売っているような安物ではないだろう。誰のものかは知らないが、持ち主はリッチなお家のお子様と見た。
二丁の拳銃をすばやく水樹に向ける。
狙うなら眉間、はさすがに目を怪我したら怖いので、心臓……!
胸に大量の水を浴びせられた水樹は、ヨミを睨みつけた。
お互い銃を突き付けて、静止する。
「観念したらどうですか? 水樹さんじゃ、わたしには勝てませんよ」
「うっさい。威張らないで。息切れしてるくせに」
「水樹さんこそ」
「今、手加減したでしょ」
「だって怪我したら嫌じゃないですか」
「そういうとこがムカつく」
ふたりとも、肩で息をしていた。しばし睨み合うこう着状態が続き――、同時に水鉄砲をおろす。
ふっと緊張が途切れた。
喧嘩が落ち着いた、というより。
「も、もう無理……」
「死ぬ……」
大人の体力の限界だった。
「知らない」
膝のあたりを流れる川に水鉄砲を浸して、水を装填する。水樹も同じように準備した。この中腰、腰にくる。いたた。
子どもたちは水鉄砲勝負と言うが、特別なルールはないようだった。彼らにとっては、楽しければそれでいいのだろう。ヨミと水樹の場合はそうもいかないけれど。
装填完了。
「えっと、じゃあとりあえず、先に当てた方が勝ちということで、どうでし――つめたっ!」
腕に水の弾が当たった。水樹が水鉄砲を構えていた。
「はい、あたしの勝ち」
「えっ、待って、今のはずるいですよ。ノーカウントです!」
「うるさい」
ふたたび水樹が引き金を引こうとする。
ああ、もう! 人の話を聞かないんだから!
ヨミはすばやく構えて、水樹より先に、そして正確に、彼女の右手を撃ち抜いた。自分で言うのもなんだが、素晴らしい早業だった。撃たれた水樹は、なにが起きたのかわからないようで呆然としている。珍しい顔だ。ちょっとだけ気分がいい。
「――言っておきますが、わたし」
銃口を水樹の眉間に向けて、
「射的、得意なので」
夏祭りの射的が好きだった。好きというか、幼いころに妹が「あれ取って!」と頼んでくるものを必死で撃ち抜こうとしたところ、異様に腕が上がった。うまくなってくると楽しくなるもので、物心ついて妹が射的に興味をなくしてからも、毎年ヨミは出店に向かった。銃の扱いであれば、自信がある。
「遠慮しませんから」
「上等」
それが開戦の合図になった。
ふたりして、水鉄砲を撃ち合う。服が濡れるのも気にしない。勝ち負けのつけ方はよくわからない。とりあえず相手に水の弾を当てる。それだけを考える。
水が跳ねて、飛んで、ぶつかる。
ちらちらと光を反射する。
そのうち、子どもたちも「ヨミさんに助太刀するー!」「じゃあわたしは水樹さんの味方!」と加わって大乱闘となった。最初はヨミ陣営、水樹陣営だったのが、もうなんだかぐちゃぐちゃになって、自分以外全員敵、と思いきやどこかで共同戦線が張られ、またどこかでは誰かが誰かのスパイになった。
水飛沫。笑い声。日の光。
暑い、熱い、冷たい、涼しい。
混乱を極めた戦線。ただひとつ、ヨミと水樹が敵同士なのは一貫していた。
「お節介おばさんのくせに!」
「水樹さんの方が年上でしょ、たぶん! 年齢知らないけど! 謎多すぎるんですよ!」
「あんたに教える義理はない!」
水樹の弾が頬をかすめて、驚いた拍子に足元が滑る。態勢が崩れたヨミに向けて水樹は容赦なく引き金を引く。肩に弾丸を浴びつつ、ヨミはすぐさま体勢を立て直した。肩を負傷したくらいで死にはしない、なんて、あれ、けっこうわたし、ノリノリでは。
「ヨミさん! 使って!」
なっちゃんが銃を投げて寄越してくれる。この戦線の中で最も威力の高い代物だった。装填できる水の量が桁違いだ。これは百均で売っているような安物ではないだろう。誰のものかは知らないが、持ち主はリッチなお家のお子様と見た。
二丁の拳銃をすばやく水樹に向ける。
狙うなら眉間、はさすがに目を怪我したら怖いので、心臓……!
胸に大量の水を浴びせられた水樹は、ヨミを睨みつけた。
お互い銃を突き付けて、静止する。
「観念したらどうですか? 水樹さんじゃ、わたしには勝てませんよ」
「うっさい。威張らないで。息切れしてるくせに」
「水樹さんこそ」
「今、手加減したでしょ」
「だって怪我したら嫌じゃないですか」
「そういうとこがムカつく」
ふたりとも、肩で息をしていた。しばし睨み合うこう着状態が続き――、同時に水鉄砲をおろす。
ふっと緊張が途切れた。
喧嘩が落ち着いた、というより。
「も、もう無理……」
「死ぬ……」
大人の体力の限界だった。
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