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第五章 ヨミ、大喧嘩?する

(四)

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「水樹さん、人の気持ちとか、ぜんぜん考えてくれないですよね」
「は?」
「いつも遠慮がないし、ズバズバ言うし、無愛想だし。そんなんだから」

 そんなんだから――。

 はたと口を閉じる。あれ、自分はなにを言うつもりだろう。

「友だちいないんでしょ、って言いたいわけ?」

 慌てて口をつぐんだのに、言葉にしなくても伝わっていた。

「あ、いえ、そこまで言うつもりじゃ」
「言うつもりだった」
「違います」
「違わない」
「違うんです」
「違わない!」
「違うってば……! 聞いてください、わたしの話!」

 一瞬しぼんだ声はどうしたことか、またボリュームを上げた。

 せっかく人が飲み込んだ言葉なんだから、水樹も知らぬ顔をしてくれればいいのに。人間関係において、察するというのも大事だと思う。水樹はそういうことをしてくれないのだ。わからず屋め。

 ふたりは見つめあった――いや、睨み合った。
 そのとき。

「あれー、ヨミさんと水樹さんだー!」

 明るい声がした。

 木陰から、小学生のなっちゃんが手を振っている。そのとなりには何人かの子どもの姿。友だちと連れ立って水遊びに来たらしい。彼らの手には水鉄砲や釣り竿や虫取り網など、夏らしい道具がそろっていた。

 水樹とは違って察しのいいなっちゃんは、ヨミと水樹を見てすぐさま言った。

「どうしたの、けんかー?」
「違うよ」
「そうよ」

 声が重なった。ヨミはむっと眉を寄せる。

「ちょっと水樹さん。大人の喧嘩なんて、子どもに見せられないですよ」

 ぼそっとささやく。

「は? 隠す意味ある?」

 水樹は普通の声量で言う。

 子どもたちはわらわらと集まってきて、そのうちのひとりの男の子が水樹を見てケラケラ笑った。

「水樹さん、推しが結婚してたんだろ? うわあ、かわいそー!」
「うっさい」
「かわいそうだから、俺が水樹さんと付き合ってやろうか」
「は? 調子乗らないで」
「はいはーい、ふたりともストップストップ。それでー……、はいこれ、水樹さんに」

 なっちゃんが呆れた顔で仲裁に入った。それから、持っていた水鉄砲を水樹に渡す。別の友だちからもうひとつ水鉄砲を借り、それはヨミに渡された。

 なんだこれは。

「ヨミさん水樹さん! 喧嘩はいけません。どうしてもって言うなら、水鉄砲で決着をつけること!」

 なっちゃんは腰に手を当てて、なぜだか楽しそうに言い切った。

「……はい?」

 水鉄砲?

 なんだかよくわからないけれど、子どもたちの間で水鉄砲勝負が流行っているらしく、なっちゃんの提案にその場は異様な盛り上がりを見せた。ヨミさん頑張って! 水樹さんやっちゃえー! などなど、声援が飛ぶ。

 状況が理解できないながら、引くに引けなくなったことだけは察した。
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