長野ヨミは、瓶の中で息をする

橘花やよい

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閑話 二十四時間営業って、すごい

二十四時間営業って、すごい

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 なんでもかんでも二十四時間営業にしなくていいんですよ、とヨミは思う。そんなに働かなくてもいいよ。夜くらいゆっくり休んでください。と、思っていたのだが、夜に働いてくれる人に大感謝を覚えた、とある夜のこと。

「アイスが食べたいんだ」

 夜中に突然、体調不良で寝ていた父がヨミの部屋に来た。

 父は朝から微熱があった。たいしたことはない。それでも本人がしんどそうだったから、ヨミも母もよしよしと世話を焼いた。それが夜中に突然、アイスが食べたいと。

「冷凍庫にない?」
「なかった」
「じゃあ諦めて」
「ひどい」
「今からアイスなんて買いに行けません。頼むんだったら、母さんに頼んでください」
「無理だよ。母さん、もう寝てるし。起こしたら怒るから。頼むよ、ヨミ」

 こんなことなら、ボトルシップ作りに精を出さずにヨミも寝ればよかった。まったくもう。

「わかったから、父さんは寝てて。とりあえず努力はしてみる」
「いつものバニラアイスがいい」
「はい、わかりました」

 とはいえスーパーは閉まっているし、アイスを売っていそうなコンビニは、ここから徒歩一時間。

 ヨミは車の免許を持っていない。自分の身体より何倍も大きな車という物体を扱うなんて、恐ろしくてできる自信がなかった。が、この状況下、車がないとどうにもできない。田舎はこういうとき不便だ。

 悩んだヨミは、妹の旦那である愁に「父がアイスを所望しているのですが……」とメッセージを送ってみた。

 これで返事がなければ父に「ごめん、無理だった」と言って諦めてもらうだけだ。というか諦めてもらう気満々だった。ひとまず頑張ったという痕跡だけは残しておこうと思っただけのことで。

 しかし意外なことに、愁からの返事がすぐに来た。

『アイスはないですが、よければ車を出しましょうか』

 神様か。

 ヨミはすっぴんにマスクをして、愁の家に走った。

「愁くん、夜中にごめんなさい」
「いえいえ、ちょうど本を読んでいて起きていたから、大丈夫ですよ。乗ってください」

 黄色いころっとした車に乗って、ふたりで隣街のコンビニに向かう。やがて見えてきたコンビニの光に、ヨミは感動した。本当に夜でも営業している。

「コンビニ二十四時間営業、助かるね……!」

 夜中まで働いてくれる人がいるありがたさが身にしみた。なんて素晴らしい人たち。大感謝。

 父が所望していたバニラアイスを入手し、ついでにアイスの中では一番リッチなアイスをヨミと愁のために買って、コンビニを出た。

 車は道を引き返す。ヨミの家は、愁の家より奥にある。家まで送りますよと言われたけれど、さすがに申し訳なくて愁の家でおろしてもらった。

「愁くん本当にありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。僕までアイスを買ってもらいましたし。このアイス高いから、なかなか自分では買わないので嬉しいです。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 深いお辞儀をして、ヨミは歩き出す。愁の優しい微笑みと声に、心がほっとした。安眠できそう。妹が愁と暮らすようになってから睡眠の質が上がった、と言っていたのがよくわかった。

 コンビニの二十四時間営業も、隣人の優しさも。普段気にしていないけれどありがたいことって、きっとたくさんあるのだ。

 ヨミは夜空を見上げて、深呼吸した。とても、星が綺麗だった。昼の間は存在を忘れてしまう街灯が、夜の道を歩くときは心強いんだなとか。いつもは見ない星が、こんなに綺麗だったんだなとか。気づいていないだけで、この世界には素敵なものがあふれている。

 そんな世界が愛おしい――、なんて、恥ずかしい台詞だ。夜空の輝きに促されてロマンチックなことを考えてしまった。やれやれ。

「父さん、アイス買ってきたよー。父さんー?」

 父はすっかり寝ていた。あまりにもぐっすり寝ているから、起こすのはやめた。

 だけど、せっかく買ってきたのになんなんですか……! とは思ったから、父の分のアイスは居間に飾ってある妹の写真にお供えし、ヨミは自分用のリッチなアイスを食べた。さすが、リッチな味だった。

 妹にあげたアイスも、もちろん妹が食べるなんてことはしてくれないから、そのあと自分で食べた。お腹が冷えた。でもなんだか満足して、よく眠れた。

 そんな夏の夜。
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