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閑話 名前呼びって、ドキドキする

名前呼びって、ドキドキする

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 名前呼びはどきりとする、とヨミは思う。

「独り身なの、わたしだけか」

 最近、なにかとヨミに誰かを重ねられる。太陽みたいな大学生の千田は元カノさんをヨミに重ねたし、妹の旦那である愁はヨミに妹を重ねた。自分に似ている人たちには最愛の人がいる――千田は、別れてしまったけど。ヨミには、恋人がいない。あれ、と思った。なんだか、ちょっとだけ、寂しいぞ。

 そう思ったらむかむかしてきた。やっぱり誰かと自分を重ねるのはやめてほしいものだ。比較して、悲しくなる。

 だが。

「ヨミ姉さん!」

 千田はにこにこと。

「ヨミさん」

 愁は穏やかに。

 ヨミの名前を呼んでくれる。そうしたら、なんだかどうでもよくなった。彼らだって今はもうヨミをヨミとして見てくれているのがわかる。だから、いいか、と思うのだ。

 そうして。

「長野ヨミ!」
「はいっ」

 怒声に、ヨミは飛び上がった。

「ボトルシップだかなんだかで夜中まで起きるのはあんたの自由だけど、ここで寝るのはやめてくれる? 邪魔」

 雑貨屋兼コーヒー屋店主の水樹は、イライラとした様子を隠そうともしない。

「片付けたいんだけど。あんたを中に入れたまま鍵かけてやろうか」
「わあ、ごめんなさい!」

 水樹の店のカウンターでコーヒーを飲んでいたところ、いつのまにか寝てしまったらしい。水樹はこの時間までヨミを起こさないでくれたのか。いや、放置されていただけかもしれない。

「というか水樹さん、わたしの名前知ってたんですね……! いつもあんたとかお前とか言われていたから、名前知らないのではと。わ、嬉しいです!」
「あんた、ほんとに閉じ込められたい? さっさと帰って、もう店仕舞い。三、二、一」
「わー、ごめんなさい。出ます出ます! ごちそうさまでした!」

 名前呼びはどきっとする。
 水樹の場合は色んな意味で。
 怖かった、水樹さん。
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