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第三章 ヨミ、天然記念物級の天然と庭いじりをする
(十一)
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「あ、ヨミ姉さん」
太陽みたいな大学生の千田と会った。彼とはバスの中でときどき鉢合わせる。たいていふたりともバスの中で寝てしまうから、一緒のバスに乗っていても気づかないことだって多かった。でも起きていれば挨拶くらいはするし、すこしの会話だってする。
千田は相変わらずのきらきらを背負っていた。まぶしい。目が覚める。
「ねえ、千田くん」
「はい?」
千田は首をかしげる。最初彼と出会ったときに目の下にあったクマは、すっかり消えていた。そういうものだよなあ、と思う。
「千田くんは庭に植えるなら、花と野菜、どっちがいいですか?」
「なんですか、それ?」
意表を突いた言葉だったらしく、千田はぽかんとした。それでも真面目な顔で考えてくれる。
「うーん、そうですね……。どっちもかな!」
ヨミは笑った。
「どっちもかあ。うん、いいと思います」
「やった。で、なんの質問ですか? 心理テスト?」
「いいえ。ちょっとした興味です」
千田はよくわかっていないだろうけれど、おかしそうに笑ってくれた。
その日の夕方、仕事から帰ってくると庭に立つ愁を見つけた。
「愁くん」
「あ、ヨミさん」
愁は振り向いて、ヨミにひらひらと手を振った。その手には軍手。
「いまから庭いじり?」
「はい。日中より夕方の方が涼しいということに気づいたので。ひまわり、一輪だけだと寂しいかなあと思って、買い足してきました」
愁の足元にはひまわり入りのポットがいくつか置かれていた。
「ヨミさん、よければ一緒に植えていきませんか?」
ヨミは微笑んでうなずいた。
「いいですよ。あ、そうだ。野菜の調子はどうですか?」
「芽が出てきました」
「わ、ほんとだ、すごい」
「育ったら、カレーパーティーしましょうね」
「楽しみです。さあ、やりましょうか。あ、でも服汚れるなあ」
「ナミさんの服でよければ、着替えますか?」
「あ、いいですね。ありがたくお借りします」
胸の空虚は依然としてあるけれど、まずは秋野菜カレーを食べることを目標に、ヨミは生きていこうと思う。
太陽みたいな大学生の千田と会った。彼とはバスの中でときどき鉢合わせる。たいていふたりともバスの中で寝てしまうから、一緒のバスに乗っていても気づかないことだって多かった。でも起きていれば挨拶くらいはするし、すこしの会話だってする。
千田は相変わらずのきらきらを背負っていた。まぶしい。目が覚める。
「ねえ、千田くん」
「はい?」
千田は首をかしげる。最初彼と出会ったときに目の下にあったクマは、すっかり消えていた。そういうものだよなあ、と思う。
「千田くんは庭に植えるなら、花と野菜、どっちがいいですか?」
「なんですか、それ?」
意表を突いた言葉だったらしく、千田はぽかんとした。それでも真面目な顔で考えてくれる。
「うーん、そうですね……。どっちもかな!」
ヨミは笑った。
「どっちもかあ。うん、いいと思います」
「やった。で、なんの質問ですか? 心理テスト?」
「いいえ。ちょっとした興味です」
千田はよくわかっていないだろうけれど、おかしそうに笑ってくれた。
その日の夕方、仕事から帰ってくると庭に立つ愁を見つけた。
「愁くん」
「あ、ヨミさん」
愁は振り向いて、ヨミにひらひらと手を振った。その手には軍手。
「いまから庭いじり?」
「はい。日中より夕方の方が涼しいということに気づいたので。ひまわり、一輪だけだと寂しいかなあと思って、買い足してきました」
愁の足元にはひまわり入りのポットがいくつか置かれていた。
「ヨミさん、よければ一緒に植えていきませんか?」
ヨミは微笑んでうなずいた。
「いいですよ。あ、そうだ。野菜の調子はどうですか?」
「芽が出てきました」
「わ、ほんとだ、すごい」
「育ったら、カレーパーティーしましょうね」
「楽しみです。さあ、やりましょうか。あ、でも服汚れるなあ」
「ナミさんの服でよければ、着替えますか?」
「あ、いいですね。ありがたくお借りします」
胸の空虚は依然としてあるけれど、まずは秋野菜カレーを食べることを目標に、ヨミは生きていこうと思う。
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