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第三章 ヨミ、天然記念物級の天然と庭いじりをする
(二)
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「それが、あんまり経験ないんです。いつもナミさん任せにしていたので、どうしたらいいのかなあ、と途方に暮れて立ち尽くしていました」
苦笑する愁に、ヨミも苦笑で返す。そうですよねえ、インドア愁くんですもんねえ。田舎の人間がみんな畑や庭いじりのプロなんてことはないのだ。妹は庭いじりが趣味だったけれど、ヨミも愁もそういうものとは無縁だった。
ヨミはすこし考えて言った。
「わたし、手伝いましょうか」
とたんに、ぱあっと愁の表情が明るくなった。まさに「ぱあっ」という効果音が聞こえてきそうだ。
「本当ですか、助かります。ヨミさんがいてくれたら、とても心強いです。……あ、でも図書館に行かれるんでしたよね?」
思い出したように言って、それから「ぱあっ」はどこへやら、眉を八の字にする。
「ヨミさんの予定をお邪魔するわけにはいきません。それにヨミさん、服汚れてしまいますし」
「んー」
たしかに図書館に行こうと決めて、家を出た。でも愁ひとりを置いていくのは気が引ける。日中の庭いじりなんて、この細い愁にひとりでやらせたら、ふらーっと倒れてしまいそう。うん、それは駄目だ。
「やっぱり手伝います。図書館に用事があったわけじゃないから。暇だなあと思って、とりあえず出かけてみようと思っただけ。だからいいんです。でも服は、着替えに行こうかな」
予定変更。なんといっても休日だから、ヨミのしたいように時間を使えばいい。図書館より、愁の手伝いの方が優先順位は高い。今日は、庭を綺麗にする日だ。
愁は本当に嬉しそうに微笑んだ。そこまでの顔をされると、ヨミも頬がゆるむ。年下はかわいい。
「ありがとうございます、ヨミさん。嬉しいです」
「いえいえ。それで、なにから手伝いましょう?」
ヨミが訊くと、彼はうーんとうなって庭を見渡す。
「そうですねえ……、なにからすればいいんでしょう?」
あまりにもふわふわした声だった。ちょっと不安になって控えめに訊いてみる。
「ちなみに、愁くん。この庭になにを植えるつもりで?」
愁はひとつ、ぱちっと瞬きして首をかしげる。
「ああ、決めてなかったです。どうしましょう」
「な、なるほど、了解です」
そうだ、愁はこういう人だった。ヨミの妹はよく「天然記念物級の天然」と彼を称していたほどだ。
――彼は保護対象なの。お姉ちゃんも守ってあげてよ。
頭の中でよみがえる妹の声に、了解とうなずく。お任せください、どうにかしましょう。庭いじりはヨミも自信がないけれど。まあ、どうにかなるだろう。
「わかりました。じゃあまずは苗とか種を買いに行きましょうか。ホームセンターに行けばいろいろあると思うから。ものを揃えて、それから作業しましょう。ゴールがわかりやすい方が作業できるかもしれないし」
「ああ、そうですね。そうしましょう。さすがです、ヨミさん。じゃあ車を用意しますね」
「わたしは着替えてきます」
ふたりでぐっと親指を立てる。
車の鍵を取りに行く愁の背中を見送り、日差しが雑草の青々しさを引き出す庭を眺めた。雑草、なんて生命力だ。この日差しを浴びてなお、ぴんぴんしているなんて。その元気を分けてほしい。
ヨミは家への道を引き返しながら、花壇ではなくプランター栽培にした方がいいかもしれないなあと考える。プランターの方が楽だと、妹から聞いたことがあった。花壇に植えるとなれば、あの雑草はびこる庭を全力で整えるところから始めなくてはならないだろうし。それはちょっとヨミと愁には無理がある。
家に帰って、箪笥の肥やしになっていた服を掘り起こした。汚れたらそのまま捨ててしまえばいい。全然着ていないのに踏ん切りがつかなくて捨てられなかったから、いい機会だ。この服とは今日でお別れ。ヨミと服の、最後の共同作業。
庭に戻ると、愁が待っていた。
「ヨミさん、どうぞ」
「はい。よろしくお願いします」
苦笑する愁に、ヨミも苦笑で返す。そうですよねえ、インドア愁くんですもんねえ。田舎の人間がみんな畑や庭いじりのプロなんてことはないのだ。妹は庭いじりが趣味だったけれど、ヨミも愁もそういうものとは無縁だった。
ヨミはすこし考えて言った。
「わたし、手伝いましょうか」
とたんに、ぱあっと愁の表情が明るくなった。まさに「ぱあっ」という効果音が聞こえてきそうだ。
「本当ですか、助かります。ヨミさんがいてくれたら、とても心強いです。……あ、でも図書館に行かれるんでしたよね?」
思い出したように言って、それから「ぱあっ」はどこへやら、眉を八の字にする。
「ヨミさんの予定をお邪魔するわけにはいきません。それにヨミさん、服汚れてしまいますし」
「んー」
たしかに図書館に行こうと決めて、家を出た。でも愁ひとりを置いていくのは気が引ける。日中の庭いじりなんて、この細い愁にひとりでやらせたら、ふらーっと倒れてしまいそう。うん、それは駄目だ。
「やっぱり手伝います。図書館に用事があったわけじゃないから。暇だなあと思って、とりあえず出かけてみようと思っただけ。だからいいんです。でも服は、着替えに行こうかな」
予定変更。なんといっても休日だから、ヨミのしたいように時間を使えばいい。図書館より、愁の手伝いの方が優先順位は高い。今日は、庭を綺麗にする日だ。
愁は本当に嬉しそうに微笑んだ。そこまでの顔をされると、ヨミも頬がゆるむ。年下はかわいい。
「ありがとうございます、ヨミさん。嬉しいです」
「いえいえ。それで、なにから手伝いましょう?」
ヨミが訊くと、彼はうーんとうなって庭を見渡す。
「そうですねえ……、なにからすればいいんでしょう?」
あまりにもふわふわした声だった。ちょっと不安になって控えめに訊いてみる。
「ちなみに、愁くん。この庭になにを植えるつもりで?」
愁はひとつ、ぱちっと瞬きして首をかしげる。
「ああ、決めてなかったです。どうしましょう」
「な、なるほど、了解です」
そうだ、愁はこういう人だった。ヨミの妹はよく「天然記念物級の天然」と彼を称していたほどだ。
――彼は保護対象なの。お姉ちゃんも守ってあげてよ。
頭の中でよみがえる妹の声に、了解とうなずく。お任せください、どうにかしましょう。庭いじりはヨミも自信がないけれど。まあ、どうにかなるだろう。
「わかりました。じゃあまずは苗とか種を買いに行きましょうか。ホームセンターに行けばいろいろあると思うから。ものを揃えて、それから作業しましょう。ゴールがわかりやすい方が作業できるかもしれないし」
「ああ、そうですね。そうしましょう。さすがです、ヨミさん。じゃあ車を用意しますね」
「わたしは着替えてきます」
ふたりでぐっと親指を立てる。
車の鍵を取りに行く愁の背中を見送り、日差しが雑草の青々しさを引き出す庭を眺めた。雑草、なんて生命力だ。この日差しを浴びてなお、ぴんぴんしているなんて。その元気を分けてほしい。
ヨミは家への道を引き返しながら、花壇ではなくプランター栽培にした方がいいかもしれないなあと考える。プランターの方が楽だと、妹から聞いたことがあった。花壇に植えるとなれば、あの雑草はびこる庭を全力で整えるところから始めなくてはならないだろうし。それはちょっとヨミと愁には無理がある。
家に帰って、箪笥の肥やしになっていた服を掘り起こした。汚れたらそのまま捨ててしまえばいい。全然着ていないのに踏ん切りがつかなくて捨てられなかったから、いい機会だ。この服とは今日でお別れ。ヨミと服の、最後の共同作業。
庭に戻ると、愁が待っていた。
「ヨミさん、どうぞ」
「はい。よろしくお願いします」
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