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第二章 ヨミ、偏屈な女店主とお茶を飲む
(一)
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甘いものとしょっからいものを一緒に食べたい。そうは思いませんか。わたしは思う、なんて鼻歌まじりに冷蔵庫を開け、ショートケーキを取り出す。
誕生日じゃない。記念日でもない。でもケーキが食べたかったから買ってきた。そういう日もある。贅沢だっていいと思うんですよねえ。
ヨミはおしゃれなお皿にケーキを乗せて、おしゃれなフォークを用意する。食器は大切。物理的には変わらないと思うけれど、気分的にとても味が変わる。ホテルの料理が美味しいのは、お皿やその場所の雰囲気もおおいに関係していると思うのだ。食器、大事。
だからってインフルエンサーみたいにゴリゴリに凝った食器を用意するほどのこだわり派ではないけれど。それでもヨミなりにおしゃれに用意したケーキと、ポテトチップスの袋を持って自室のローテーブルに広げ、
「ふんっ」
さっそくポテトチップスの袋を開け、
「んんっ!」
開け……、
「ふっ!」
開かない。
ぺしんと八つ当たり気味に袋を叩いて、はさみを取り出す。
部屋の棚には作りかけのボトルシップがある。瓶はこの間、父と母が飲みきった日本酒のものをもらった。今回の帆船は滑車その他もろもろ、ロープがぐるんぐるんと張り巡らされている。たいへん面倒だけど、やりがいのある船だ。ピンセットをつっこんで瓶の中でロープを張る作業の細かいこと。小人の世界に手を加える巨人の気分だ。
小さくした部品を瓶に入れる段階では、もちろんロープもだらんと垂れ下がっている。ピンセットを独自改良した道具を瓶に突っ込み、ロープを手繰り寄せ、船のフックに引っかけて張っていくのだ。ヨミはふふっと笑う。楽しみ。面倒とやりがいは裏表なのである。
そんなことはともかく、はさみで袋を開けて、念のため刃先はティッシュで拭う。使い終わったティッシュは丸めてごみ箱へトス。ホールイン。
「よし」
準備完了。
「いただきます」
まずはケーキを食べる。白い生クリームで着飾って、頭には真っ赤ないちごを乗せたショートケーキ。甘い。糖分の塊を食べている罪悪感が最高だ。つづいてポテトチップス。しょっからい。カロリーの罪悪感。
ケーキ、ポテチ、ケーキ、そしてポテチ。
この食べ方が、ヨミのお気に入りだ。ケーキは好きだが、甘いからずっとは食べ続けられないという難点がある。胃がむかむかしてくるのだ。子どものころはもっと食べられたと思うのだけど、いまは半分も食べたら手が止まってしまう。
大人になったなあと思う。決して消化能力が落ちたわけではない。味覚が成長したのだ。絶対そう。
とにかく、甘いケーキの合間にポテトチップスを挟むことで、最後まで美味しくケーキを食べられるという作戦をヨミは生み出した。
――お姉ちゃん、なにそれ。太りそう!
妹にはよく呆れられたものだ。
「うん、美味しい」
べつにいいじゃない。太りそうという罪悪感もよしというものである。妹はそのあたりをわかってくれない。贅沢してるー、という感じがしていいのに。たまには欲望のままにカロリーお化けになりたい。
……でもやっぱり変かなあとは思うから、家でしかやらないし、ひとには話さない。
美味しいコーヒーがセットだとなおいいのだけど、残念ながら家のコーヒーは切らしていた。あー、コーヒー飲みたいなあ……。スマホの画面をスクロールする。
「あ」
ちょっと嫌なものを見つけてしまった。
よってケーキを食べて幸せを補給する。甘かったからポテトチップスも食べる。
――ネット社会、こういうことあるからやだよなあ。
誕生日じゃない。記念日でもない。でもケーキが食べたかったから買ってきた。そういう日もある。贅沢だっていいと思うんですよねえ。
ヨミはおしゃれなお皿にケーキを乗せて、おしゃれなフォークを用意する。食器は大切。物理的には変わらないと思うけれど、気分的にとても味が変わる。ホテルの料理が美味しいのは、お皿やその場所の雰囲気もおおいに関係していると思うのだ。食器、大事。
だからってインフルエンサーみたいにゴリゴリに凝った食器を用意するほどのこだわり派ではないけれど。それでもヨミなりにおしゃれに用意したケーキと、ポテトチップスの袋を持って自室のローテーブルに広げ、
「ふんっ」
さっそくポテトチップスの袋を開け、
「んんっ!」
開け……、
「ふっ!」
開かない。
ぺしんと八つ当たり気味に袋を叩いて、はさみを取り出す。
部屋の棚には作りかけのボトルシップがある。瓶はこの間、父と母が飲みきった日本酒のものをもらった。今回の帆船は滑車その他もろもろ、ロープがぐるんぐるんと張り巡らされている。たいへん面倒だけど、やりがいのある船だ。ピンセットをつっこんで瓶の中でロープを張る作業の細かいこと。小人の世界に手を加える巨人の気分だ。
小さくした部品を瓶に入れる段階では、もちろんロープもだらんと垂れ下がっている。ピンセットを独自改良した道具を瓶に突っ込み、ロープを手繰り寄せ、船のフックに引っかけて張っていくのだ。ヨミはふふっと笑う。楽しみ。面倒とやりがいは裏表なのである。
そんなことはともかく、はさみで袋を開けて、念のため刃先はティッシュで拭う。使い終わったティッシュは丸めてごみ箱へトス。ホールイン。
「よし」
準備完了。
「いただきます」
まずはケーキを食べる。白い生クリームで着飾って、頭には真っ赤ないちごを乗せたショートケーキ。甘い。糖分の塊を食べている罪悪感が最高だ。つづいてポテトチップス。しょっからい。カロリーの罪悪感。
ケーキ、ポテチ、ケーキ、そしてポテチ。
この食べ方が、ヨミのお気に入りだ。ケーキは好きだが、甘いからずっとは食べ続けられないという難点がある。胃がむかむかしてくるのだ。子どものころはもっと食べられたと思うのだけど、いまは半分も食べたら手が止まってしまう。
大人になったなあと思う。決して消化能力が落ちたわけではない。味覚が成長したのだ。絶対そう。
とにかく、甘いケーキの合間にポテトチップスを挟むことで、最後まで美味しくケーキを食べられるという作戦をヨミは生み出した。
――お姉ちゃん、なにそれ。太りそう!
妹にはよく呆れられたものだ。
「うん、美味しい」
べつにいいじゃない。太りそうという罪悪感もよしというものである。妹はそのあたりをわかってくれない。贅沢してるー、という感じがしていいのに。たまには欲望のままにカロリーお化けになりたい。
……でもやっぱり変かなあとは思うから、家でしかやらないし、ひとには話さない。
美味しいコーヒーがセットだとなおいいのだけど、残念ながら家のコーヒーは切らしていた。あー、コーヒー飲みたいなあ……。スマホの画面をスクロールする。
「あ」
ちょっと嫌なものを見つけてしまった。
よってケーキを食べて幸せを補給する。甘かったからポテトチップスも食べる。
――ネット社会、こういうことあるからやだよなあ。
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