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エピローグ 魔法使いと子猫の、新ドーナツ

1.きみとドーナツを1

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 その日、快は烏天狗の宴会場へとドーナツを届けていた。妖怪からの依頼は、烏天狗が断トツで多い。幼なじみの八尋がいるからという理由が強いだろう。人脈というのは大切だ。

 今回は竹林の小径の宴会場だった。烏天狗も烏も、大勢が集まって酒を呑み交わしている。

「あ、快さーん。ドーナツはよちょうだい」

 すでに酔っぱらっている八尋が絡んでくるため、ひなただけは巻き込んでたまるかと背中に隠す。酔った八尋は要注意だ。と、八尋の背中になにかがいることに気づいて、目をまたたく。

「おい八尋。その子――、またさらってきたわけじゃないよな?」
「失敬な。今度はちゃあんとぼくの甥っ子ですう」

 快の背中には、まだほんの幼い子どもがへばりついているのだ。背中にはおもちゃのようにも見える愛らしい烏の翼が生えている。

 ――本当に烏天狗か? ひとの子じゃないのか?

 快は注意深くその子どもを見つめる。どことなく八尋と目もとが似ている気がしないでもない。今度はたしかに甥のようだ。

「ひどいわあ、快さん。そんなに疑わんでもええやんか」
「おまえには前科があるだろう」

 しくしくと嘘泣きをする八尋に冷めた目を送る。

 その前科である真央親子のことを思い出してしまって快はげんなりしたから、早々に宴会場を出ることにした。いや、真央親子のことは「元気にしているだろうか」となつかしく思い出せるのだが、八尋の仕打ちが駄目なのだ。

 ほうきに乗り、ひなたも乗せて、空に舞い上がる。八尋が「快さん冷たいわ」とわめいているが、知ったことか。

「かい」
「なんだ?」
「ひなより、ちいさかった」

 家に向かって飛びながら、ひなたの言葉に首をかしげる。甥のことだろうか。見ると、ひなたはうずうずとした顔で快を見ている。これはもしかして。

「遊びたかったか? 甥っ子と」
「あそぶ……」

 自分でもよくわかっていないらしく、ひなたは目をまたたく。遊びたいかはともかく、甥に興味を持ったのはたしかなようだ。

 あの人見知りなひなたが、他人に関心を示してくれた。妙に感動が押し寄せてきた。子どもというのは、こうして成長していくものなのかもしれない。

 いつか、快に甘えることなく、自由に友だちをつくって遊びに行くようになるのかも。そう思うと寂しさが募ってくるのだが、先のことを考えても仕方ない。そのときは、そのときだ。

 それはともかく、快はうなった。

「……遊ぶのは、今度でもいいか?」

 八尋を無視して出てきてしまった以上、いまさらもどるのも気が引けた。いまもどれば、確実に八尋にいじられる。ひなたのためには、そんなこと気にせずにもどったほうがいいかもしれないが。どうしても八尋に会いたくない――と思ったのだが。

「こんど」

 ひなたがぽつりとつぶやくから、快はすぐさまほうきをUターンさせた。

「よし、いまから行くぞ」
「え。いいの?」
「当たり前だ」

 ひなたが一歩成長しようとするなら、止める理由はない。

「ありがと。かい」

 にっこりと笑うひなたのためなら、八尋にうざ絡みされることくらい我慢しよう。

 そうして、やはり八尋に絡みに絡まれ疲労した快だったが、ひなたは八尋の甥と無事に打ち解けたようだった。自分よりも幼い子どもがめずらしいらしく、ひなたが積極的だったのはいいことだ。
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