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第三章 仲直りの、ドーナツケーキ

20.きみといっしょに2

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「俺はひなたのおかげで、魔法を使えるようになった。それに俺もあのころとちがって、すこしは大人になったんだ。もう、受け止められるから」

 つかんだひなたの腕は細く、冷たい。この小さな身体で、どれだけのことを背負っていたのだろう。ふがいない快のために、どれだけのことを犠牲にしたのだろう。

 この子を守ってあげたいと思っていたのに、守られていたのは自分のほうだった。

 また涙が落ちそうになって、目もとをこする。いま、ひなたの前で泣くわけにはいかない。するべきことはもっとほかにある。快は目を閉じた。自分を救ってくれた子猫に、恩を返さなければ。

 ふっと、快とひなたのまわりに、青白い光が生まれた。あわくやわらかな光は、ゆるやかにただよう。桂川に光が映りこんで、まるで天の川のように輝いた。光のいくつかがひなたの肌に触れると、ぬくもりに変わってひなたをあたためていく。

 夢うつつの景色に、ひなたは目を奪われたようで、またたきすら忘れていた。

「――きれい。あったかい」

 やっとこぼれ出たひなたの言葉に、快は微笑む。

「ひなたがいるから、魔法が使えるんだ」
「……ひな、やくにたった?」
「立ちすぎてるくらいだ。だから、頼むよ。ここにいてくれ」

 ひなたの大きなひとみに、快の姿が映る。

「もう、全部をひなたに背負わせないから。俺がちゃんと受け止めるから――。だから、そばにいてほしい」

 光に照らされて、ひなたが目を大きくさせる。快のひとみをひたすらに見つめる仕草は、まるで快の本心を探ろうとしているようだった。けれど、快の言葉にも想いにも嘘はない。それを示すように、快もまっすぐにひなたを見た。

 もうひなたに、寂しい思いもつらい思いもさせたくない。

 再会してからの日々は楽しかった。ひなたのためにドーナツをつくることも、店が休みの日にともに昼寝をすることも、配達にいっしょに向かうことも。でもきっと、ひなたは寂しさと隣り合わせの生活だった。

 今度はひなたにも、なんの憂いもなく笑ってほしい。そう思う。

「ひな、は」

 やがてひなたの顔に、迷いが生まれた。胸の内からあふれてくるものに耐えるように目を閉じ、それから、ふるえるくちびるを開く。

「ひなは、ここにいてもいいの……?」

 絞り出すような、切実さで。

「かいのそばに、いてもいいの?」

 そのひとみがうるみ、魔法でつくりだされた光を反射して輝いた。つぎにはこらえきれないというように、ぽろぽろと涙があふれる。玉のような、きれいな涙が。

「ひなは」

 息を吸う。

「ひなは、ここにいたい」
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