魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~

橘花やよい

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第三章 仲直りの、ドーナツケーキ

9.すれちがい2

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 小鬼の声が、ふっと頭によみがえる。

 ひなたは涙目のまま、快をにらみつけた。

「かいは、しらないままでいい」
「……どういうことだ」
「おもいださなくていい。しらなくていい。それでいい」
「ひなた」

 快も耐えきれなくなって強い語調で名前を呼ぶと、ひなたはびくっとふるえた。それでも、いつものように快に甘えることはなく、くるりと背を向けると逃げるように二階に駆け出した。

 残された快はわけがわからず、こぶしをにぎる。

 知らないままで、思い出さないままでいい。それは快がなにかを忘れていることを確定させた言葉だった。そして、ひなたがなにかに関わっていることも――。

 だが、うすぼんやりとした輪郭を得ただけで、なにも像が結ばれない。結局、快はなにもわかっていないに等しかった。

「なんなんだよ……」

 疑問に答えてくれる者はいない。木枯らしが吹きつけて、店のシャッターをがたがたと鳴らした。店内を彩るあたたかい照明も、快の心までは照らしてくれない。

 自分はいったいなにを忘れているのだろう。ひなたは、小鬼は、なにを知って、なにをしようとしているのだろう。

 柄にもなく舌打ちがこぼれた。

*****

 その日からだった。

 快とひなたは言葉を交わすことがすくなくなり、そのことが心の負担にでもなったのか、ひなたは寝込むようになった。布団で横たわりながら、それでもひなたは言った。

「こおに、だめ」
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