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第三章 仲直りの、ドーナツケーキ
4.幼なじみに相談ごと3
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「かい?」
顔を上げると、ひなたがとてとてと駆け寄ってくるところだった。小さな手が、快の頬に当てられる。
「あたま、いたい?」
「いや、なんでもないよ。すこし昔話をしていただけだ」
「むかし」
「ああ。俺、子どものときのことうろ覚えだなって。何年も前のことだし、忘れていて当然って感じもするけどさ。でももしかしたら、なんかあったのかもと思って。あの小鬼と」
ひなたは、わずかに目を大きくさせた。
「なにかって」
「あいつがストーカーするの、むかしの俺に原因があったんじゃないかと思って。ぜんぜん覚えてないんだけど、俺が、あいつを怒らせるようなことをしたのかもしれないし――」
「ない」
ふと、ひなたが言った。快の言葉を遮るように、きっぱりと。快は八尋と目を見合わせる。
「かいは、わるいことなんてしてない」
ぎゅっとこぶしをにぎって、真剣に快を見つめるひなたの様子に、八尋は噴き出した。
「なるほど。ひなたくんにとって、快さんはヒーローみたいなもんなのかなあ。悪いことなんてするわけないから、ストーカーされる理由もない、ってね。快さん、ひなたくんの前では悪いことできへんね」
「そうかもな」
信頼してくれるのはうれしいような、子どもの夢を壊さないようにしなければというプレッシャーが重いような。八尋が言うとおり、ひなたの前では悪いことなんてできそうにない。いや、だれの前でだって悪いことはしないけれど。
「ま、怨みばっかりがストーカーの原因になるわけやあらへんからなあ。快さんは西洋の色男やし、小鬼に惚れられるようなことをしたんかも」
「それも記憶にないな」
茶化してくる八尋をよそに、ひなたは抱っこをねだってきた。抱き上げてやれば、夜の冷え込みも子ども体温にまぎれるというものだ。
ほろ酔いの烏天狗たちに絡まれたことで疲れてしまったのか、ひなたはぎゅっと快の服をつかんで目を閉じた。
勇樹のぶっきらぼう加速事件も、快のストーカー事件も、なかなか解決の糸口を探すのは骨が折れそうだ。快はひそかにため息をついた。
顔を上げると、ひなたがとてとてと駆け寄ってくるところだった。小さな手が、快の頬に当てられる。
「あたま、いたい?」
「いや、なんでもないよ。すこし昔話をしていただけだ」
「むかし」
「ああ。俺、子どものときのことうろ覚えだなって。何年も前のことだし、忘れていて当然って感じもするけどさ。でももしかしたら、なんかあったのかもと思って。あの小鬼と」
ひなたは、わずかに目を大きくさせた。
「なにかって」
「あいつがストーカーするの、むかしの俺に原因があったんじゃないかと思って。ぜんぜん覚えてないんだけど、俺が、あいつを怒らせるようなことをしたのかもしれないし――」
「ない」
ふと、ひなたが言った。快の言葉を遮るように、きっぱりと。快は八尋と目を見合わせる。
「かいは、わるいことなんてしてない」
ぎゅっとこぶしをにぎって、真剣に快を見つめるひなたの様子に、八尋は噴き出した。
「なるほど。ひなたくんにとって、快さんはヒーローみたいなもんなのかなあ。悪いことなんてするわけないから、ストーカーされる理由もない、ってね。快さん、ひなたくんの前では悪いことできへんね」
「そうかもな」
信頼してくれるのはうれしいような、子どもの夢を壊さないようにしなければというプレッシャーが重いような。八尋が言うとおり、ひなたの前では悪いことなんてできそうにない。いや、だれの前でだって悪いことはしないけれど。
「ま、怨みばっかりがストーカーの原因になるわけやあらへんからなあ。快さんは西洋の色男やし、小鬼に惚れられるようなことをしたんかも」
「それも記憶にないな」
茶化してくる八尋をよそに、ひなたは抱っこをねだってきた。抱き上げてやれば、夜の冷え込みも子ども体温にまぎれるというものだ。
ほろ酔いの烏天狗たちに絡まれたことで疲れてしまったのか、ひなたはぎゅっと快の服をつかんで目を閉じた。
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