魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~

橘花やよい

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第三章 仲直りの、ドーナツケーキ

3.幼なじみに相談ごと2

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「なんだよ急に……、覚えてないけど」
「んー、いやな、快さんって、むかしは小動物もかわいがってた気がしたんよ。ほら、クロエさんの使い魔の、ルナやったっけ」

 祖母の使い魔だった黒猫を、快も思い出す。ルナはいつでも祖母の近くにいた。イギリス出身の祖母が日本に渡ってから出会った化け猫で、黒い毛並みが艶やかで美しかった。

 快が子どものころは、ルナも祖母の家で寝起きしていた。だが快がイギリス滞在を経て日本に帰ってきたときには、その姿を見るのは稀になっていた。もしかしたら、主人の死を悟りはじめて、お役御免の空気を感じていたのかもしれない。

「まあ、ルナは特別だろ。俺が赤ん坊のときからいっしょにいたんだから」
「そうですかねえ」

 八尋はどこか納得していない顔だ。

「ほかの動物とも、ふつうに接してた気がするんやけどなあ」
「そうだったか?」
「そうです。快さん、覚えてないん? ぼけるには早すぎるんとちがいます?」
「失礼だな。ぼけてない」
「でもトロッコ列車にぼくと行ったことも忘れてるでしょ?」
「それは、まあ……そうだけど」

 正直に言うと、まったく覚えていない。八尋の言うように、自分の記憶力が悪すぎるのか?

「じゃあ快さん、あれは? 小倉山に花見しに行ったときのこと。たしかあのときも、黒猫を連れてましたよ。ていうか快さんはよう黒猫連れて出歩いてた気がする」
「そうだったか? お目付け役にルナをつけられてたのかな」
「……ほんまに覚えてへんの?」
「ああ」

 あまりにも忘れすぎ、だろうか。快もすこし不安になってきた。だが思い出せないのだから仕方ない。

 八尋は肩をすくめる。

「まあ、問題の小鬼やけど、ひなたくんと関係あるかは実際わからへん、っていうか、それはだいぶ適当に言っただけなんやけど」
「おい」
「だって快さんからかうん楽しいし」

 あっけらかんと八尋は言って、「でも」とまじめな顔になった。

「小鬼と快さんは縁があるんでしょ? じゃなきゃストーカーなんてされへんもんね。むかしのこと思い出すのは必要なことなんやないかなあ」
「そんなこと言われても……」

 小鬼と自分。むかし、なにかあったのだろうか。

 快はこめかみに指をこつこつと当てて考えてみた。小鬼と縁があるのは祖母や父など、快の家族のだれかかもしれない。実際あの店には、祖母の知り合いだったという妖怪たちがドーナツを買いに来ることもあるし、あの小鬼だって祖母の知り合いかもしれない。しかし幼いころの自分と関係があった可能性も捨てきれないわけで。

 ――あの小鬼と会ったことは……ない気がするけど。

 駄目だ。まったく覚えていない。
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