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第二章 縁結びの、ミニドーナツ

30.一抹の不安

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 そうして満足していた快の心に影が射したのは、渡月橋からの帰り道のことだった。

 道の角に小鬼がいるのがわかった。いつも快たちをじっと見ている、赤い着物姿の少年だ。しかし見ているだけで近づこうとはしない。こちらから歩み寄っても、すぐに逃げていく。

 この夜も、小鬼はじっと快を見ていた。ひなたが快とつなぐ手に力をこめる。

「また、いる」
「そうだな。――なあ、おまえもドーナツ食べたいのか?」

 近づけば逃げられるから、快はその場から呼びかけた。

 河童の瓜生は、葉月と出会うまでドーナツを食べたことがなかったからと、ずいぶん気に入ってくれた。もしかしたら、あの小鬼もドーナツを食べたいだけなのかもしれない。ずっとストーカーされるのも気分がいいものではないし、ひとつふたつドーナツを渡して満足してくれるなら、それがいい。

 だが、小鬼はくちびるを三日月の形に持ち上げた。

「食べたいの? たいの?」

 くすくすっと笑う声がする。

「……食べたいわけじゃないのか? おまえ、なんでいつも店を見てるんだ」
「見てるんだ? 見てるんだ?」

 駄目だ。話が通じない。どうすればいいんだろう。この小鬼はなにがしたいんだ。快が眉をひそめると、小鬼はさっと背中を向けて駆け出して行った。その姿は、すぐに夜の闇へと溶けていく。

「――ひな、あいつきらい」

 ひなたが快の手をにぎった。

「なんなんだろうな、あの小鬼」
「しらない」

 ぼそりとつぶやき、ひなたはそっぽを向いた。


第二章 縁結びの、ミニドーナツ (了)
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