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第二章 縁結びの、ミニドーナツ
28.お礼のお礼2
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その夜、快はひなたと連れ立って渡月橋に向かった。河川敷で声をかけると、川の中からにゅっと瓜生が顔を出す。こんばんは、と陽気に手をふる瓜生に紙袋を差し出した。
「これ、葉月さんからおまえに」
「葉月さんから? わ、ドーナツだ!」
「差し入れしてくれた礼だってさ」
そう言うと、瓜生はきょとんと目を丸めた。
「ずっとぼくがもらってばかりだったので、お返しにと思って差し入れをしたのに。葉月さんからお礼をされては意味がないですね」
「そうかもな。でも葉月さんの気持ちだから、受け取っておけ」
ひとにやさしくすれば、いずれはそのやさしさが自分にめぐってくる。あたたかなお返しの気持ちがぐるぐると廻るのは、悪いことではないだろう。
瓜生は納得したのか「ならばありがたく」と紙袋を開けて、おおっと声をあげる。
「あいかわらず快さんのつくるドーナツはおいしそうです。あ、ひなたくんにもひとつあげますね。今回がんばってくれたって聞いているので。ひなたくん、ありがとう」
「ううん」
首をふりつつ、ドーナツはちゃっかり受け取るひなたに、快は呆れる。
ドーナツは一日にひとつと決めているのだが、それがゆるくなってきている気がした。ドーナツをうれしそうに食べる姿を見てしまうと、どうも取り上げることができなくなるのだ。それに八尋やほかの客たちも、ひなたが喜ぶからと度々お菓子をくれるし、甘味が渋滞している。
このままではいけない気がした。一時的とはいえ保護者を務めている快が、心を強く持たなければ。
――でも、最近のひなたは健康体になってきてるし、これでいいのか?
細かった腕や脚も、ほどよく肉がついてきている。肌もやわらかく、髪も艶が出て……野良猫の風情だった姿はすっかり家猫の整ったものへと変わってきていた。いい影響が出ているのであれば、このままたくさん食べさせるべきか。いやしかし栄養のバランスを考えて――。
そんなことを思っていると、「あ」と瓜生が声を上げた。
「快さん、これは……」
「ああ、それも葉月さんからの贈り物だ」
瓜生が目を丸めて、紙袋の中に入っているドーナツ以外のものを取り出した。細長い物体は、彼にも馴染みのあるものだろう。
「胡瓜!」
そう。河童の好物、胡瓜だ。
「な、なんで! まさか快さん、葉月さんに話しちゃったんですか! ぼくが河童だって。ひどい! どうしよう、このまま河童の話が広がったら、ぼく、ほかの河童たちからひどい目に遭わされますよ!」
「待て待て。俺がそんなことするわけないだろ」
ただ葉月は、うすうす察していた……というより、疑問に思っていたのだろう。瓜生は本当に人間なのか、と。
やはり女性の勘はあなどれないということだ。
「これ、葉月さんからおまえに」
「葉月さんから? わ、ドーナツだ!」
「差し入れしてくれた礼だってさ」
そう言うと、瓜生はきょとんと目を丸めた。
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「そうかもな。でも葉月さんの気持ちだから、受け取っておけ」
ひとにやさしくすれば、いずれはそのやさしさが自分にめぐってくる。あたたかなお返しの気持ちがぐるぐると廻るのは、悪いことではないだろう。
瓜生は納得したのか「ならばありがたく」と紙袋を開けて、おおっと声をあげる。
「あいかわらず快さんのつくるドーナツはおいしそうです。あ、ひなたくんにもひとつあげますね。今回がんばってくれたって聞いているので。ひなたくん、ありがとう」
「ううん」
首をふりつつ、ドーナツはちゃっかり受け取るひなたに、快は呆れる。
ドーナツは一日にひとつと決めているのだが、それがゆるくなってきている気がした。ドーナツをうれしそうに食べる姿を見てしまうと、どうも取り上げることができなくなるのだ。それに八尋やほかの客たちも、ひなたが喜ぶからと度々お菓子をくれるし、甘味が渋滞している。
このままではいけない気がした。一時的とはいえ保護者を務めている快が、心を強く持たなければ。
――でも、最近のひなたは健康体になってきてるし、これでいいのか?
細かった腕や脚も、ほどよく肉がついてきている。肌もやわらかく、髪も艶が出て……野良猫の風情だった姿はすっかり家猫の整ったものへと変わってきていた。いい影響が出ているのであれば、このままたくさん食べさせるべきか。いやしかし栄養のバランスを考えて――。
そんなことを思っていると、「あ」と瓜生が声を上げた。
「快さん、これは……」
「ああ、それも葉月さんからの贈り物だ」
瓜生が目を丸めて、紙袋の中に入っているドーナツ以外のものを取り出した。細長い物体は、彼にも馴染みのあるものだろう。
「胡瓜!」
そう。河童の好物、胡瓜だ。
「な、なんで! まさか快さん、葉月さんに話しちゃったんですか! ぼくが河童だって。ひどい! どうしよう、このまま河童の話が広がったら、ぼく、ほかの河童たちからひどい目に遭わされますよ!」
「待て待て。俺がそんなことするわけないだろ」
ただ葉月は、うすうす察していた……というより、疑問に思っていたのだろう。瓜生は本当に人間なのか、と。
やはり女性の勘はあなどれないということだ。
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