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第二章 縁結びの、ミニドーナツ

26.届けに来ました4

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 葉月に渡した紙袋には、小さなドーナツをたくさん詰めてある。すこし前に、ひなたと試作品をつくったときと同じようなサイズだ。種類も複数。

 瓜生に「話のタネになるように、いろいろな種類を入れてほしい」と依頼されたから、通常商品にはないミニドーナツ詰め合わせを特別につくってみたのだ。

 列車をおりて楽しそうにドーナツを囲み「これがおいしそう」などと話している少女たちを見るに、瓜生の作戦は成功したのだろう。

「かい!」

 ととと、とひなたが駆け寄ってきた。抱きついてくるひなたを受け止めて、その頭をなでてやる。

「お疲れ。今日はひなたのお手柄だな。まさか、ほうきから列車に飛び移るとは思わなかったけど。高いところ苦手だろ。怖くなかったか?」
「こ、こわかった」
「あ、やっぱり」

 いまさら恐怖を思い出したのか、ひなたがじわっと涙目になった。むぎゅむぎゅと抱きついてくるひなたを抱き上げて背中をなでる。

「葉月さんのために、がんばったんだな。偉いぞ」
「ほんと?」
「ああ。ひなたのおかげで、葉月さんも楽しそうだ」

 ドーナツを囲ってはしゃいでいる少女たちを見つめる。クラスメイトとともに、葉月もたしかに笑っていた。

「かいも、がんばった」
「え?」

 ふいに、ひなたが手を伸ばした。小さな手が、快の頭に乗る。

「どーなつ、まほうでたくさんつくった。ほうきでとどけたし。かいも、たくさんがんばった。かいのまほう、すごい」
「……そうだな、俺の魔法も多少は役に立ったかもしれない」
「ううん。いっぱい。いっぱい、やくにたった」

 えらい、と頭をなでてくれるひなたに、快は礼を言った。ひなたがとても真剣に褒めてくれるのがおかしくて、また照れくさくて、不器用な笑みになってしまう。

 あいかわらず魔法は苦手だけれど、たまにはこういうのもいいかもしれない。だれかの笑顔につながるのなら、快もうれしい。

 すこしずつではあれど、自分の胸に巣くっていた魔法嫌いの気持ちが溶けていくような気がした。いつまでも嫌いなままでいるのは、もったいないかもしれない。せっかく、ひとにはない不思議な力を持って生まれてきたのだから、こうして魔法を使ったっていいだろうか。

 祖母や父、ほかの魔法使いたちには敵わなくても、自分にできる範囲のことで、だれかの役に立てたらいい。

 いつか「魔女のドーナツ」の店主にふさわしい魔法使いになれるだろうか――。

 快は表情をやわらげた。

「さて、そろそろ帰るか。八尋ひとりに店番任せるのも不安だし。帰りはどうする? 俺たちも列車で帰るか?」
「ううん。ほうきで、とぶ」
「でも、また高いところに行くことになるぞ」
「へいきになった、かも」

 ひなたは、にこりと微笑んだ。

 こうして子どもは成長していくのか、なんて感慨にふけりながら、快はふたたび空に舞い上がった。少女たちの華やかな笑い声を聞きながら。
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